妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

81.花慶オマージュ

「どうだった。南斗の荒鷲は」

相変わらず腐臭が漂って来るかのような声だ。
そして腹が立つのがこいつらの多くに共通した不気味な動作だ。頷きが非常に多く、手首もカクカクと動かし続けている。
更にもう一つ、こいつらの黒いローブのフードで隠れた顔に特徴がある。
片目の下には殴られたような青痣があるのだ。右目の下だったり左目だったりとはそれぞれ異なるが、この弱々しい身体で殴り合いでもしているのか?

「どうということもなく」
ガルダは素っ気なく答えた。

妹や村の生き残りが人質に取られている。
この時代からすれば快適すぎる暮らしをしているが、ガルダが逆らおうものなら即座に妹たちは、これでもかという様な苦痛の末に命を落とすことになる。

元斗皇拳のファルコならケンシロウめを倒せるか?」
この問いは深い。
ガルダはファルコの強さを知ってはいないが、互角と並び称される金獅子ガルゴの拳を見ている。
ガルゴを師と仰ぎ弟子となったが、実際は元斗皇拳を教えられたということではない。
自分が神鳥ガルーダの火翼を得るためにガルゴと共に戦地を疾り、その金色のオーラと戦いぶりから教えを得たのだ。
あの強さ、、、あれはまさに獅子。獅子王だ。

ガルダは同時に拳王ラオウの力も知っている。かつてガルダは拳王軍に所属していた過去を持つからだ。

とは言え、拳王麾下三泰山の将軍にも属さず、特定の隊も任されてもおらず、恐らく拳王軍で最も制限の少ない行動ができていた男であろう。

拳王軍の一方では聖帝サウザーとの睨み合いを続けていたが、ガルダへのほとんど唯一と言える制限として、ラオウガルダをその方面からは遠ざけていた。
その理由は不明だが、サウザーとことを構える状況で南斗の男を身近に置くことを懸念したのだろうか? しかし恐らくそうではないだろうとガルダは考える。
ラオウの野望は世紀末覇者たる、という一本柱であり、その他のことに関しては些事に過ぎないようで計り知れないところがあった。

 


ガルダは一度だけラオウの拳を見た。

 

ラオウ直下の兵たちは一人一人が強靭な戦士であった。その突出した個がよく戦略を理解した軍列となり、軍師の指示のもとに動く様は複数で戦うことのないガルダには衝撃的であった。
個として比べれば、南斗神鳥拳奥義には達していなくても「聖拳」を身に付けたガルダに敵う者は当然ながら誰もいない。

だが単ではなく複としての拳王侵攻軍本隊の驚くべき武力を目の当たりにし、驚きながらもその強さの真の源を理解した。

恐怖、、、拳王への恐怖が、全く乱れのない強固な軍列をなしているのだ。軍師の手腕もあろうが、この絶対的な規律は背後のラオウへの恐れ以外にない。それこそ背水の陣では済まないそれ以上の覚悟を有していただろう。
拳王ラオウには他に類を見ない絶対的な恐怖があった。

 

破竹の勢いで攻め進む拳王本隊の前に立ち塞がったのは敵軍である烈王レキガ。

3mは優に超えるだろう巨体は分厚い筋肉で包まれており無駄な肉がない。長いモヒカン頭で、もみあげが口元まで繋がっている。

恐らく実験施設出と思しき大男。あの体躯で歩けること自体が奇跡的である。多くの人体強化の試みも、そのほとんどは失敗に終わったが、その男は極めて珍しい稀なケース、人間兵器の成功例であった。

恐らくだが、戦場における実戦投入への待機状態だったのではないか? 並の人間なら持つことさえも無理であろう巨大な大槍を二振り両手に構え、その巨体に違わぬ怪力で拳王侵攻軍の猛者たちを次々と打ち倒して来る。

そのレキガを中心に敵兵も勢いに乗る。

しかし、数で勝る上にラオウへの恐怖から退くことのない拳王軍がすぐに優勢となり、レキガの兵たちは次々と討ち取られて行った。

ついにはレキガを残して兵たちは殲滅されたが、たった一人でもラオウに立ち向かわんとする意思は揺らぐことがない。

レキガは拳王ラオウと正面に向かい合い、戦いの前の言葉を交わした。

「強い、、これが拳王の力か。なるほど貴様はこの世界の覇者となるだろう。では俺はその拳王と好勝負をした男として名を残そう。俺とサシで勝負しろ!」

 

ガルダは聞いている。拳王に敵対した者は、ただその場で倒されるのではなく、敢えて死までの三日の猶予を与えられるということを。
しかし、巨大な黒馬の上に座すラオウの口からは意外な言葉が出た。
「なかなかの強さだ。気に入った。この拳王に仕えよ」
その大男は横目で周囲に転がった死体の山を見た。そのほとんどは自分に従って来た兵士たちである。今更この兵たちの死の上に自分の命を生かす選択はない。
「グハハハ! その気はないわ!」

とレキガの戦意は増すばかり。
「ますます気に入った。拳王に仕えい。カサンドラ再建の後にはうぬに獄長を任せてもよい!」
大男は更に大きく笑うと雄叫びと共にラオウに走り出した。
「死ねい!拳王!!」
と、レキガは走り出しアスファルトの地面に槍の石突きを立てる。その槍を使い棒高跳びのように巨体を浮かせ高く舞い上がった。

が、ラオウは、 
「むん!」
と、黒王の跨ったまま左手を伸ばし激流のような氣を放った。
その氣圧が巨体捨て身の突撃を一瞬空にて静止させると、
「ずおりゃ!!」
と右拳で砲撃した。それは正に砲撃であった。

ドン!!

巨大な男は顎下から下腹部にかけてその砲撃をまともに受け、宙にて壮絶なる絶命。地に落ちた時には原型をとどめていない別のものに成り果てていた。
ガルダはあまりに凄まじいラオウの力に放心してしまっていた。

ラオウは「砲撃」のまましばらく静止していたが、、、いや、それはガルダに刻まれた強烈な印象だったのかも知れない。

圧倒的力、唯一無二の存在ラオウとそれを目の当たりにしながら隊列を崩さずに傍に立っている兵たち。その光景はまるである種の宗教画のようにも思えるほど神々しいものであった。

 

 

肉塊と化した敵を見下ろすラオウの目は蔑むでもなく、厳しいままであったが敵に対する敬意のようなものがあるような気さえした。

既にこの頃、拳王の名は聖帝と天下を二分する勢力として各地隅々にまで伝わっている。三日後の死を与えるという真似はしなくなっていたのだろう。
それにしても、外部からの破壊を究める南斗聖拳でさえ霞むようなラオウの破壊的な拳。
ラオウの拳を見た者が口を揃えていう言葉、あれは正しく「天破る拳」。この乱世の覇者の力だった。


もちろん「斗」の戦いは破壊力だけではない。ラオウが力だけの男ではないのも知っているが、単純にあの金獅子ガルゴと比較して優劣付けるのは簡単ではない。

そしてガルゴとファルコの強さを全くのイコールと仮定しても勝敗は読めない。どうあっても実現しようがない仮想の戦いなのだ。

 

だが何より重要な点、、、ケンシロウはあのラオウを倒した男であるという事実。

 

「勝敗は誰もわからないだろう」

「ちっ」

そして黒いローブを着た老人は聞き取れない何かをブツブツと呟きながらガルダに背を向けた。

その不自然な歩き方を嫌悪の目で睨みながらガルダ独り言を言う。

「ここは息が詰まる。地上に出る」

真っ赤なバイクに飛び乗りセルモーターを回した。