妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

3.蝙蝠

広い部屋の中央にそのベッドがあった。無駄な装飾もなく、飾られる像の類もないシンプルな部屋で、広さを埋めるものがない。床面はキレイに磨き上げられ、壁面にある燭台の柔らかい灯りを反射している。 
新しい世界の夜はまさに静寂であるが、この部屋の周りや各所には絶えず火が灯され、眠そうな目をしたモヒ官たちが警護に勤しんでいる。 
暗殺されることなどまず考えられない男を警護するという、徒労感に近いものを感じてはいるが警護の仕事そのものは上級モヒ官にのみ許される特別で誇り高い任務だった。 
さらに付け加えれば聖帝軍の中での待遇の良さもある。上級兵としての優越感を思うなら「夜勤」の辛さも忘れられる。
彼らは決して怠けているわけではない。常人ならばまず侵入はできないだけの警護がなされていた。

全身を黒で包んだその男は、ベッドの何やら複雑な彫刻の施されたヘッドボードに座り、そのベッドの主人の顔を面白そうに、実に興味深いというような体で見続けている。
すでに一時間近くも飽きることなく眺めている。
その男蝙蝠はこのベッドの主が自分の存在に気が付いていることを知っている。
「下郎、なぜやらぬ」 
ゆっくりと目を開けながらベッドの主は静かに言った。こんな下郎にやられるとは少しも思っていないが、この謎の男の命を賭けた遊びに付き合っている。 
「う〜ん、、私がやる必要はありませんなあ。あなたには死相が出ておりますよ、サウザー様。私ではなく、天があなたを殺す」と蝙蝠は天を指差し微笑する。 
「天と?」口元を帝王の笑みで歪めながらサウザーは返した。
「天が俺を殺すと?」 
サウザーは起き上がるとまだ座ったままの蝙蝠を鬱陶しそうに見下し、しかし静かに言う。
「降りろ」 
「へい」
音もなくしかし素早く蝙蝠はサウザーの正面に対した。蝙蝠の速い動きに少し遅れて黒いマントがフワリと追いつく。 
黒一色の蝙蝠に対し、薄暗い中にも目立つほど真っ白なナイトガウンに身を包んだサウザーは一見シュールなようでいて、反面、威風堂々が服を着ているかのようであった。 
完全な肉体、満ち満ちる氣、強烈な個性、ただの夢物語では終わるまいその野望。死と最も遠いところに立っている。まさに帝王。南斗を統べる者だった。 
「天がこの聖帝をどう殺す」 
獰猛な獣が微笑む。