妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

2.

宿命の地から離れたかった。北斗も南斗もない地へ逃げたかった。


離れられないことは知っている。逃げられないこともわかっている。
南斗の男それ以外に彼の存在意義はない。しかし実質においては既にただの男であった。
では彼はこれからどうなるのか。わかりようがなかった。 
わかりたくもなかった。

かつてはこの荒廃した「新世界」にあっても上等な服で身を飾った彼が、今ではボロを纏い、ただひたすらに目的もなく歩き続けている。
こんなに身体が重かったことはない。彼の身体は元より氣を使わずとも常人としての限界にまで鍛えられていた。しかも、それを維持するのにきつい鍛錬の必要がなかった。
南斗の秘術がそれを可能にしていたからだ。 
今は違う、、、、
痩せた身体は自重を支えるのも楽ではなかった。
野党や野獣に襲われたならば、その危機を回避できるであろうか?
野党や野獣を危機と考えた自分を内心嘲笑う。


だが、、、、それにしても何故に生きている、、、、、
また同じ疑問だ。答えは出ないのに考えるのを止められない。 

紋章ブラッディクロスの十字形に死点を極められた。 
北斗の拳によって死するを恥とし、ただ意地で自死を選んだ。
相手が南斗に相対する北斗神拳の伝承者だったから。かつては友と呼ぶ男だったから。
同じ女を愛した男だったから。
違う。その女が愛した男だったからだ。

「あのとき」のように五車星が身を投げた彼を救う筈はない。その理由がない。仮にそうであったとしても死の秘孔は突かれているのだ。一度刻まれた北斗の秘拳からは逃れられまい。
稀に強力な精神が秘孔の効果を超えることがあるとは聞いたが、複数の秘孔を突かれた必殺の状態な上、自死を決めた自分にその精神力などある筈もなかった。 
完全に破壊された左手にしても動かすことはできず酷い傷跡はあるが、まともな形にはなっている。 これも理由がわからない。
だが、あのとき確かに自分は死んだのだ。今のこの状態は本当の死の直前の夢なのではないだろうか。

そんな気さえしてくる。


世紀末、新世界、、、、暴力が支配する古くて新しい世界。
この破壊し尽くされた大地の中にも豊かな自然が生きていることに驚く。かつての都心から離れた山間ゆえに戦争の影響は少なかったのだろうか?
重い身体を引きずるように進みながら彼らしからぬ想いで自然の力に感心していたときだった。
「!!」 
森の中を進む彼の右足に突然縄が絡み付き、次の瞬間には、ザザザ!!そのまま引きずられると、すぐに持ち上げられ逆さに吊るされた。
直後に網をかけられ完全に動きを封じられると槍を構えた男たちに囲まれていた。
なんということか。こんな素人たちの気配も読めず、こんな単純な罠をかわすこともできない。 
やはり「力」は失われたのだ。