妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

1.ある男

前回から三ヶ月ほど経っている。

 

今までで最も長く間を置いた。失敗に終われば、またあの耐え難い痛みに襲われる。
彼ならば痛みというものをある程度心理的に制御はできるが、戦闘中ほど痛みに鈍感にはなれない。
「氣」を使わない痛み止めの術なら少しばかり心得てはいるものの、肉体の内奥から湧き上がるあの痛みには全くと言っていいほど役に立たない。
その強烈な痛みに対し、恐怖に似た感情が形成されている。いやそれはもう恐怖に違いないが、、、そう認めないだけなのかも知れない。

 

覚悟を決める。

 

呼吸を変える。呼吸法そのものに、その力を呼び起こす効果があるわけではない。呼吸の変化は力を解放して増幅するきっかけ、パスワードのようなものだ。
でなくば、誰でもその呼吸を真似さえすれば力を使えることになる。
あの力、人を遥かに超えるあの能力を、、、

 

力の解放を試したその直後に軽い疼痛を感じた。

焦る。

この次の展開が経験からわかるからだ。
その直後、胸から腹にかけて、背面にまで激痛が襲う。ちょうど酷い傷跡のあるところだ。
肉体の内奥から、破裂した水道管から猛烈に水が吹き出るようなあの勢いで痛みが襲いかかった。
深夜、木材とブロックで組み立てただけの小さい家とも言えないような寝るだけの簡素な空間の中、その激痛に耐え切れず地に膝を着き、彼は低い呻き声を上げた。

 

今回も失敗だった。いや、失敗でさえないのかも知れない。つまりはもう、、損なわれてしまったのかも知れない。
激痛のピークを越え漸く思考が澄んで来ると、その痩せた身体を覆う大量の汗その中に混じる少量の出血に気が付いた。
次も激痛が彼の試みを退けることにはなるだろうが、もし仮に無理矢理に続けた場合、この肉体も遂には傷跡をなぞるようにして十字に裂けるのではないか。
右手で胸を押さえる。まだ残る痛みに耐えるためだけではない。「力」が損なわれた現実が怖かった。彼を彼たらしめていた誇りはすでに崩れ去ってはいるのだが、その崩れ去った誇りの欠片がさらにすり潰されるように思える。
左手も胸に当てた、、、しかしその左手は掌側にも手の甲側にも酷い傷跡があり軽く握ったような形のまま、全く動かすことも出来ない。
あの時以来、、、