妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

179.

またひとつ、命の灯が消えた。

そこに叫びや苦痛の思念はない。オウガの手練れに気取られることなく命を奪っている。

しかも、場合によっては雷光や雷鳴に合わせてことを為している。暗殺拳としての技量はかなりのものであることが推察できた。

それでいて、気配を全くは隠そうとしていないような感じも受ける。

気配を隠していることを、敢えて悟らせるかのような、まるでゲームを楽しむかのような印象さえ感じられた。

 


リュウケンは怒りと悲しみを抑えつつ、重く静かに目を開いた。

ザァ〜、、開けておいた雨戸からは雨が吹き込んでいる。

カッ! 雷光が屋敷の外を照らした一瞬、そこに長髪の男の影があった。

雨脚はいよいよ強い。数秒後に次の雷光が煌めいたとき、そこに侵入者の影はなかった。

 


「我が師は言う」

座したリュウケンの背後から、傲慢の含みがある声があった。

北斗神拳伝承者リュウケン殿の拳、神域に至る、と」

リュウケンは息を静かに吸い込み、この後確実に訪れる戦いに備えた。あくまで静かにだった。

「なるほど確かに、、あの岩砕きには驚かされた。南斗にあって、あの氣は初。しかし、あれだけではなかろう」

「、、、、」

「その神域とやら、是非にご教示いただきたい」

怒りが込み上がる、、、しかし、怒りに身を任せるリュウケンではない。

フウ〜と、まるで浮き上がるかのようにリュウケンは立ち上がった。その動きにブレがない。まるでない。

立ち上がる所作だけで、これがただならぬものである!ということを、シンは気付かされた。

その異様さに押されそうになるが、彼の負けん気が勝る。

「言葉は無用! 拳にてお教えいただこう!」

いきなりにシンが沸き立つ!!

 

そのあまりに無思慮で身勝手な、若いということでは済まされない兇行の数々。しかし、、、、恐らく南斗六聖拳の一人になるであろう拳士。

「ぜりゃ!」

そんなリュウケンの思慮など気にも留めず、シンは南斗の「聖なる凶刃」にて襲い掛かる。

ススッ、、難なく、そして静かにリュウケンは横に逃れ、一方のシンは勢いの余り、、と言うよりも、まるで腹いせかのように壁を撃ち貫いた。

その破壊音は小さかった。無駄な力が少ないからである。リュウケンはまだ若いこの拳士の資質の高さに刮目した。

だからというわけではない。迷いはある。

これは教えを求める稽古ではない。シンはリュウケンを「取る」気なのだ。それが何をもたらすかさえ、まるで考えていない。

しかし、リュウケンは決断した。

 


「愚かなり。せめて奥義にて葬ろう」

奥義、、これほどの男が言う「奥義」。シンは戦慄した。

だが、、、

「是非に」

凶を極めた笑みが浮かぶ。