またひとつ、命の灯が消えた。
そこに叫びや苦痛の思念はない。オウガの手練れに気取られることなく命を奪っている。
しかも、場合によっては雷光や雷鳴に合わせてことを為している。暗殺拳としての技量はかなりのものであることが推察できた。
それでいて、気配を全くは隠そうとしていないような感じも受ける。
気配を隠していることを、敢えて悟らせるかのような、まるでゲームを楽しむかのような印象さえ感じられた。
リュウケンは怒りと悲しみを抑えつつ、重く静かに目を開いた。
ザァ〜、、開けておいた雨戸からは雨が吹き込んでいる。
カッ! 雷光が屋敷の外を照らした一瞬、そこに長髪の男の影があった。
雨脚はいよいよ強い。数秒後に次の雷光が煌めいたとき、そこに侵入者の影はなかった。
「我が師は言う」
座したリュウケンの背後から、傲慢の含みがある声があった。
リュウケンは息を静かに吸い込み、この後確実に訪れる戦いに備えた。あくまで静かにだった。
「なるほど確かに、、あの岩砕きには驚かされた。南斗にあって、あの氣は初。しかし、あれだけではなかろう」
「、、、、」
「その神域とやら、是非にご教示いただきたい」
怒りが込み上がる、、、しかし、怒りに身を任せるリュウケンではない。
フウ〜と、まるで浮き上がるかのようにリュウケンは立ち上がった。その動きにブレがない。まるでない。
立ち上がる所作だけで、これがただならぬものである!ということを、シンは気付かされた。
その異様さに押されそうになるが、彼の負けん気が勝る。
「言葉は無用! 拳にてお教えいただこう!」
いきなりにシンが沸き立つ!!
そのあまりに無思慮で身勝手な、若いということでは済まされない兇行の数々。しかし、、、、恐らく南斗六聖拳の一人になるであろう拳士。
「ぜりゃ!」
そんなリュウケンの思慮など気にも留めず、シンは南斗の「聖なる凶刃」にて襲い掛かる。
ススッ、、難なく、そして静かにリュウケンは横に逃れ、一方のシンは勢いの余り、、と言うよりも、まるで腹いせかのように壁を撃ち貫いた。
その破壊音は小さかった。無駄な力が少ないからである。リュウケンはまだ若いこの拳士の資質の高さに刮目した。
だからというわけではない。迷いはある。
これは教えを求める稽古ではない。シンはリュウケンを「取る」気なのだ。それが何をもたらすかさえ、まるで考えていない。
しかし、リュウケンは決断した。
「愚かなり。せめて奥義にて葬ろう」
奥義、、これほどの男が言う「奥義」。シンは戦慄した。
だが、、、
「是非に」
凶を極めた笑みが浮かぶ。