妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

174.

互いがそれぞれの天帰掌を解除する。

シンは突き主体のため、指を伸ばし、右前半身の構えで、右手の指の高さは目線やや下。左手はそれよりまた低く防御と迎撃を兼ねる。

ケンシロウは左前半身の構えで、シンとは左右逆である。しかし、拳は握っており、前に出ているその左手は腹部の高さ。

つまり、互いに「いつもの慣れた」構えだった。

北斗神拳ともなれば、構えにはさほど意味はないかも知れない。その万能性、汎用性からして単に正しく、「慣れている」程度だろう。

一方で、細かく分派し、それらを特徴付ける中で生まれた南斗聖拳の構えには、必然それぞれの個性が反映されている。

シンは今や「南斗聖拳」の伝承者であって、「孤鷲拳」のみの使い手ではない。だが、最も長く付き合いのあるこの構えは、彼にとってもやはりやりやすい。

更に言うなら南斗聖拳源流の直系だけに、あらゆる無駄を排除した最も暗殺拳たる特徴を継承したのが、彼の孤鷲拳でもあった。

つまり、彼らにとってのいつもの構えは、この一戦にあっても最高の構えということになる。

 

 

 

初手は大事だ、、、、

究極の暗殺拳同士の対決ともなれば、一切の情や感傷、遊び心は否定されるべきものだ。

だが矛盾するようだが、これは拳法家の、それも最強を賭けた、、、いや違う。

最強の拳の王と、それに挑むだけの資格を示した拳聖の死闘である。

ジリッジリッっと間合いを詰めて行くが、ケンシロウの方が精神的な波は少ない。北斗神拳伝承者という王者の風格と、あとは生まれ持った性格だろうか。

煌びやかな装飾もしていない、この目の前の男だが、明らかに拳の王だった。ケンシロウこそ真なる拳の王であった。頂点に立つ者だった。

しかし、そんな受ける印象・圧力をより強大なものにしているのは、己の中より生まれるものでもあるとシンは知っている。

ケンシロウは「でかい」。最もでかい。が、その巨大な像をより巨大にするのはシン本人でしかない。

 


先ずは、「挨拶」と行こうか。挑戦者らしいところを見せてやろう。

脱力し、最速ではない疾さでシンが出る。最速ではないが、ケンシロウの挙動には細心の注意を払い、特に氣の動きには最も注視した。

 


受けるはずだ!

先ずケンシロウは受ける。敵を「知り」、「学び」、「自らのものにする」のが北斗神拳だからだ。

こちらが全力でないことを感じ取り、受けに回る!

 


彼らの速度域の中では「ゆっくり」と間合いに入ったシン。ビシュッ!単発の右突きを放つ。

ケンシロウは半歩退がり、難もなく間合いを外した。そして、その半歩が下がり切るや否や、、

「あた!」

と闘気で燃え上がるような剛拳を撃ち込んで来た。

シンは、突くために踏み込んだ右脚で床を反発し、ケンシロウが詰めた分の間合いを外す。

回避したケンシロウ剛拳。その余力が壁を打ち砕く、、、ということはなかった。それでいい、、、シンが内心嗤う。

無駄に込められた闘気が、的でないものも砕き散らすのは、此度の一戦には合ってない。戦場ではいいかも知らんが、ここは違う。

 


「、、、」

一方で、様子見と思しきシンの一撃に感心するケンシロウでもあった。

そのたった一度の突きの精度に、無限に繰り返したとも思えるほどの、練があった。

斬り裂かれた空気の中に「異物感」がない。余分な切りカスがない。

自身の拳を見つめ見極め、欠点を知り、精度を高め続けなければこんな拳にはならないことを、ケンシロウは経験から理解している。

北斗神拳南斗聖拳。これらの拳を身に付ければそれだけで、技量に多少の難があったところで遥か高みの超越者となってしまう。

だが、もちろん、その枠組みの中で更に突き出るには、常日頃からの鍛錬しかないのだ。

かつて「全て見切っている」と言い切ったシンの拳からは鍛錬の跡が感じられる。

 


ブチッ、、、ブチッ、、

「何してる?エンドゥ」

「え?そりゃあ、、」

ポワンとした印象の若い男だが、手練れで構成される元将星付きシュメの中でも一目置かれる程の武の持ち主だ。

「ナンフー様が言ったじゃん?」

「なんて?」と返す男は反対に四角四面のキッチリした仕事を愛する、これもまたそれなりに手練れの一戦士である。

「アリ一匹通すなって、さ」

北斗神拳南斗聖拳の宿命を超えたこの一戦は、立会人さえもいない、完全に隔離された空間でなされるべきもの。

故に、いかに人の住むには適さないこの廃都であろうと、偶然に通りかかる者がいないとは限らない。

偶然に見せかけた泰山や華山の者たちが来ないとも言い切れない。

かの南斗神鳥拳ガルダは泰山の頂点に立つ男たちと向き合っているが、彼らはそのことを知らない。

二人の戦いは、そのつもりがあろうとなかろうと、絶対に何者にも邪魔はさせるな、との命が下っている。

もちろんシュメだけではない。北斗神拳の下部組織オウカや南斗聖拳諸派も、かなり遠巻きではあるが、歪んだ円を描くように、

言わば巨大な結界を張るが如くに、二人の、まだ静かな激戦の行われている折れ曲がったタワーを囲んでいた。

 


「それに、今日のナンフー様は本物だしね」とエンドゥはアリを石で潰しながら言う。

「本物って、、ナンフー様はある種の象徴であって、あ!、ああまぁいいか」

「ん〜?」

「いや、小蝿が通ってった」

「あぁ、小蝿ねぇ」

「いいのか?小蝿なら」

エンドゥは顎を掻きながら答える。

「誰も通すな、アリさえも、、って言ってたから、小蝿はいいんだよ」

「そういうものかね」

「そういうものだよ」

「じゃあ野犬なら?犬に「誰」と言うかね?熊や猫なら?」

「通さないよ」

「なんで?」

少し笑いながらフクマは訊き返す。

「大きいから。名前も付けられるくらいでしょ。アリに名前は付けないよ」

「なるほど、納得した」と、少しも納得してなさそうにフクマは言った。

「エンドゥ、どっちが勝つかな?」

「どっちでも、いいよ」

フクマは問いを振った自分が悪いと反省した。