妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

158.蝙蝠

シン様

あまりに唐突なる別れをお許し下さい。しかし生憎、ときに別れとは突然に来るものであることをよくご存知でしょう。

それを思えば私たちの別れは大の字が2、3個付くくらいの成功ですよ。

まぁ、突然なのは確かにアレなんですが、その時は近いとわかってましたからね、私だけは。

シン様が南斗聖拳を究め、そしてケンシロウ様に挑む。そして私に決闘の立ち会いを依頼する。

そのお願いをお断りする以上は、もうシン様の前には居れません。

ですがもちろん、私はシン様の勝利をお祈りしています。いえ、嘘です。祈りはしません。ただ、そうは望んでます。

私めの祈りが天に通じるとは思えませんし、その天は、どうやら北斗神拳伝承書様がお好きなようです。

天は北斗を生かすのではないしょうか。それを人の力で覆すことが果たして可能でしょうか。そこが見所ですね、私なりの。

、、、一度はシン様もあのサウザー様もケンシロウ様に対して勝利しましたが、あの方のお命は奪われなかった。

結果的に見れば、北斗神拳の力の飛躍に寄与したわけです。

どうでしょうねぇ?

北斗神拳を滅ぼすことが南斗聖拳伝承者として正しいのかどうか、、、、この辺は私ではわかりません。考えるだけでも身分不相応です。

とは言え、南斗様が負けたままでいるというのは、私も気持ちの良いものではありません。

 


そうそう、何故に私が南斗蝙翔拳の伝承者ではなく「担い手」なのか、の答えですが、、、長くなりますよ?

 


私もシュメの一部でしたし、家族とも言える者たちがいました。いいえ、もちろん温かい家庭というような意味合いではありません。

それはシン様もよくおわかりでしょう。要は同僚ですよ。仕事を回すには必要な者たちです。

企て屋、下見屋、実行屋、逃がし屋、その後の事務的、、、要らない話ですね。失礼しました。

暇な時ってのは、そうはないんですが、いつもいつも南斗様にお仕事を賜っているわけではありません。

それで私も南斗様に対して「営業」をかけることもございました。上から仕事を振られるだけではないのですよ。

南斗様のお高い方々からのお仕事は上から待ちですが、いわゆるところの中流の南斗様には小間使いの営業をかけるわけです。

しかしながら私は正直な営業マンでして、気に入らない、いや失礼しました。何と言いましょう、感性の異なるお客様に取り入ろうとはしませんでした。

そのかわり、やっといただいた仕事は確実にこなしましたよ。顧客満足度は上々のハズです、はい。

 


シュメの中にもですね、かなりの腕利きはいます。その中でも更に稀なる人だけ、南斗様と関わることで「感応」してしまうことがありました。

私がそうでした。

「感化される」ことと、性格的に相性が良いというのは別物でしたが、私の感応先であるヘンショウキ様とは、何となく馬が合うというものでした。

私もあのシュメの中でさえ変人でしたが、あの方もそうでしたから。

長い髪はモジャモジャで目つきも悪く、言葉遣いも、その、ええまあ、そういう感じでした。

反面、変に飾らず真っ直ぐで面白い方でしたよ。少しだけ尊敬もしてました。少しです。

暇があればヘンショウキ様のところに顔を出しては世間話をしてました。はい、もちろん私たちの「世間」話です。

あの方はよく、「お、蝙蝠!いいところに来た! こんな技はどうだ?」と来るものですから、よく実験台にされてましたよ。

ちゃんとした仕事だ、として報酬までいただきました。受け取りはお断りしましたがねぇ、、「じゃあこれは仕事ではないと?」

と仰るものだから、私としても一歩間違えば命に関わりますし、本当に全力で受け役をしましたから、最終的にはいただいてました。

それでですよ、毎回毎回、顔を見せる度に技を披露して下さるんで不思議に思い、もしや?と勘づいたわけです。

「これってまさか、南斗蝙翔拳の秘技ではないのですか?」とね。ヘンショウキ様は笑って認めましたよ。「気付いたか」とね。

「何をなさるんです!? 冗談じゃありません。シュメが南斗様の技を学ぶことは禁忌です。厳罰に処される行為です!」私は言いましたよ。

「いいじゃねえか。南斗は唯才を掲げてんだ。シュメだからって優れた才能をみすみすミスするわけにいかんだろ?」

そんな方でした。ウケるわけないのに駄洒落なんて混ぜ込んで、深刻なことをなあなあにしてしまうような、ね。

「それにオメエさんに伝授してるわけじゃねえ。俺の拳技を確かめてるだけだ。南斗ってのもなかなか不自由で私闘はできねえんだよ」

そんなことをずっと繰り返しましてねぇ。

大きい「仕事」がない時、暇を見つけてはヘンショウキ様をお邪魔して、「家族」のために小遣い稼ぎさせていただいてました。

そうしてる内にいつの間にやら、私も立派な「感応者」です。あ、立派ってのはただの言葉です。私はただのシュメ、いや、シュメでさえなかった。

話戻しますね。私の方も氣を用いるようになってからというもの、己の武芸が上達していくのが、とにかく楽しくてですねぇ。

「仕事ですから仕方ないですね」と言いながら禁忌と知りつつ、お付き合いさせてもらってました。

ヘンショウキ様が「絶対に他の野郎らには漏らさねえからよ」と言うので信用しましたが、、、はい、すみません、言い訳です。

自分の武が急速に高まる歓びに勝てなかったんです。

自分の描く理想像に辿り着けるお方はどれくらいいるでしょうか、、、

私が描く忍の中の「武人」としての一面、理想像に近付いて行く歓びは他にありませんでした。

 


しかしです。私がヘンショウキ様を幾度も訪ねたのには、もう一つ理由がありました。

それは私個人の、武芸が高まる歓びにも勝る理由でした。