妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

187.

無想転生、、、、

 


ケンシロウは無表情で、しかも半端な形で構えたままだった。

なのに、、、存在が感じ取れない。神人の戦いは肉眼より「氣眼」が重要だ。

それが逆転している。肉眼は確かにケンシロウを捉えているが、氣眼ではケンシロウが、、、いない?

だが一つ、、シンの戦士としての本能で、ようやく感じるものがあった。

 


 


死の暗黒が無限に広がっている。

しかしそれは、大鎌を持った死神のようなものではない。

寧ろ逆で、苦痛なく死を受け入れさせ昇天させるかのような、長い戦いを生きて来たシンには、それがある種の安らぎにも思われた。

 


危ない、、、

 


死を恐怖させるではなく、覚悟させる。しかも安堵さえをも伴って、、、

暗殺拳北斗神拳の、まさに究極だった。

 


究極、、奥義、、、

シンの思いが、過日の一点に遡る。、、、師父が口にした言葉が今ここで頭をよぎる。

 

「は!」

過去に戻った自身の意識を戻す。過去を見たのは「究極奥義」の言葉故か?それともケンシロウという「死」を前にしての走馬灯が云々というやつか?

 


「そうは行くか!ケンシロウ!」

 


シンは強い意識をして、自身に絡みついた氷の棘を祓い退け、、一歩出た。

宇宙の究極に挑む、まるで人間という種全体を代表するかのような大いなる、革新的な一歩、、、

信じるしかなかった。

無をも突き砕く南斗の拳を! 無想を食い破る人間の強い意思を!

 


ビシュッ!

 


シンの神速の右突きはケンシロウの胸部を突き切った、、かに見えたその時、、、ケンシロウは左右に分裂し、更に瞬間で増殖しながらシンを取り囲んだ。

 


「う」

一瞬の気絶があった。自分の位置が変わっている。壁に打ち付けられている。直接か氣か、強い衝撃で弾き飛ばされていた。

「(これは、まずい)」

先の七星点心は、この周囲空間をケンシロウの気配で満たされ、その位置が掴めなかった。

ガルゴの「無心」は元斗の氣が足跡になり、完全には気配を見失わなかった。

過去リュウケンによって一度味わった経験とガルゴの無心を見た経験から、ケンシロウの七星点心は見切ることができた。

たが!これは別物だ!

似て非なるもの、、ではなく、まるで別物だ!

 


当てずっぽうの拳足では間違っても当たらないだろう。間違ってもだ。では受けに徹し、ケンシロウの攻め手を感じ取るか?

それが困難、いや不可能だからの究極奥義

だろう。

 


かつて、、、

ケンシロウの無想転生は北斗琉拳カイオウによって破られている。

それはケンシロウから微かに漏れる、暗殺拳でありながらも抑え切れない闘気を読まれた為である。

もっとも、北斗琉拳暗流天破であれば、その射程範囲にあるもの全てに有効であろう。あの無想転生が完全なものであっても、だ。

しかし、それはケンシロウ本人にとっても憶測でしか、今となっては語れない。

ここで確かなのは、今のケンシロウによる無想転生は、完全なもの、真の究極である、ということだ。

 


次は更にまずい、、、シンは死の安堵を恐れる心に蓋をして、もちろんそれは楽なことではなかったが、がっちりと蓋をして、フロア中央に出た。

「(歌うぞ!)」

 


増殖から単体に「戻った」ケンシロウがシンの前に立つ。

北斗神拳究極奥義無想転生の前には」

なんて悲しい目をするんだ、ケンシロウ。だがその目は勝利を確信しているからだろう? そんな目をするな。

 


、、、もっと楽しませてやる!

 


「死、あるのみ!」

ケンシロウが突きの体勢に入るその時!

シンは一歩退がり間合いを空けた!

 


肉眼で見えるは実体か? 氣眼で見えぬが実体か? 或いは逆か、そもそもそんな次元ではないか?

だがだ、いかに北斗神拳とて、実体そのものを消し去ることはできまい。

かと言って、その突きを放つ姿に合わせて、こちらが突いても当たりはしまいよ。

ならば、、

目の前のケンシロウにではなく、ビュシッ! シンは自分を中心とした円を描いた。南斗聖拳で空気に指五本の裂気の線を引いたのだ。

混じり氣のない純水のような美しい円弧が拡がり室内の壁面を刻む。いや、まさに斬った。

そう、これは当てずっぽうだった。

しかし、全方位に対する渾身でありながら澄み渡るような、「斬」だった。

これで斬れねば、打つ手なし。

目の前にいたはずのケンシロウは霞の如くに消えている。少なくとも視界にはいない。

背後に「観える」気配も、やはりない。そんなものが感じられるなら、だが。

そして、、、手応えもない。

もらった!

「ならば宙のみ!!」

 


ドン!

 


捉えた!捕らえた!

その優美な空舞は南斗のそれか!?

宙では無想転生もできまいて!

 


「うおあぁ!!」

シンが力を込める。迎撃!!の、

「南斗千首、、、!!!??」

 


またしても幻覚か、それとも受け入れ難い現実か、、、、、

宙にあっても分身増殖を為したケンシロウがシンを襲う。的を絞れず一瞬躊躇したそのスキにケンシロウの拳弾が叩き込まれた。

千首龍で身を守るも、攻めからの急な路線変更故に本来の力が出せずにシンは被弾した。

秘孔点穴はさせまいと頭部だけは守り切ったが、胴体への芯に響く北斗の拳は闘気で強化されているはずのシンの身体を打ちのめす。

「オァブ!」

自己嫌悪に陥りそうな無様な声を上げ、シンは床に腹這いに叩きつけられた。

 


音もなく、いやそれよりも本当に着地したのかさえわからないケンシロウが、倒れたシンの目の前にいる。

「北斗無想仙気雷弾」

「、、ハァ、、ハァ、、粋だな、ケンシロウ、、ハァ、、ハァ、ハ、ハハハ、フフフフ」

究極奥義無想転生に別の秘技を織り込むとは、、なんと粋な男か、ケンシロウ

「まぁ、待てよケンシロウ

小笑いのまま、シンは両掌を、経年の埃と苛烈な争いによって生じた破片砕片が散らばる床に着け、身体を起こす。銀の髪が頬に張り付く。

 

「まだ立つ、、からよぉ」


敢えて秘孔を外したのか?

秘孔の位置が知れなかったからか?

無想の拳士故に必殺の氣が抑えられたのか?

 


「さすがの北斗神拳究極奥義、、、だがまだ終わらない。先に逝ったあいつらの誰一人として、もう俺の勝利を信じてないだろうよ」

「、、、」

「だが、一人いる。こんなボロボロの俺の勝利を信じる男が、、一人だけいる」と人差し指を立てる。

本当にボロボロだった。肋が折れている。胸骨にもヒビが入っている。秘孔は撃たれなかったが、強力な北斗の拳はシンの身体を破壊した。

だが、まだその目は生きている。

 


「一人、、フフ、、たった一人だけいるんだよ。俺はそいつを裏切れない」

 


打つ手なしでも構えを作る、、、そのたった一人のために。

 


「その一人、、フフ、、この俺自身のために俺は戦う! この俺一人がまだ俺を信じている!」

(シンの左目アップ)

186.

バン!!!

 


「!?」

 


一瞬だが、シンは自分が宙に浮かんでいるような、或いはそれとも異次元に立っている?そんな感覚を得た。

ただ光だけが満ちており、自分の影さえ映らない。一つの例外を除き、全ての存在が消えており、

自分が立っているのか、宙に浮いているのか、それさえもがわからない。そんな光に包まれた空間を、ただ、観ていた。

一つの例外、、ケンシロウが前にいる。それだけが、この光の中の唯一の真理の如く、絶対的な存在感を以って重く色濃く映えている。

その致命的ともなる一瞬の虚無。ケンシロウが見逃すとは思えない隙間にも拘らず、その神撃はなかった。来なかった。

何故か? 何故ならケンシロウも同じ幻覚にあったからであった。

だが、この不可思議な状況においてもシンと違い、僅かな困惑の後には、何か得心しているような、そんな気配があった。

 

 

 

ォォォォォッ!

その一瞬から我に帰ったシンは言う。所詮は幻覚。集中すべきは現実なのだ。

ケンシロウ、折角今一番良いところに来ている。見せろよ」

「、、、」

「まさか、この期に及んで出し惜しみか? 神域を汚すな、、穢すな!」

強い感情が伴う。積年の仇敵を前にするかのように睨んでシンは言った。

ケンシロウは重厚な声で返答する。北斗神拳の重みが上乗せされているかのように。

「、、、無論だ。見せよう。そしてこれを見る時、シンよ、、強き古き友よ、それが別れとなろう」

 

何という、、、悲しい目なのか、、、睨むようなシンの目線に対したのは、ケンシロウの悲しげな目だった。

、、、背筋に冷たい汗が伝った。それが「お前の最期だ」なんて言葉ではなく、「別れ」と表したのがいい。

もうこんな思いはできまい。ケンシロウを相手にしたからこそ、この神域に立ち、今まだ留まっていられる。シンは自らの呼吸に集中した。

口をやや窄め、ゆっくりと吐く。吐き続ける。

元斗の聖にして穢れた戦士ガルゴの見せた元斗皇拳秘奥義「無心」と、それに似通った性質がある北斗の奥義「七星点心」。

しかし、予想は予想。確実なのは、その二つを超えて来る秘技だということだ。

どのような体験をさせてくれるのか、、拳士としての好奇心と恐怖ギリギリ手前の緊張がある。

と、ケンシロウが構えを解いた。そして一つ、力を緩めるように息を吐く。

 


北斗神拳究極奥義」

神域にいるシンがざわつく。氷の棘が全身を包み込むようだ。チクチク刺さり、しかも冷たい。

 


「無想転生」

 

 

 

「まだ、決着はなし、、か」

シュメの手練れ、クラマは呆けた顔で声の主を見ていた。まだ若いがその忍び働きはシュメの幹部たちに劣らない。

そのクラマが驚きながら言う。

「! モウコ、いや、、」

まさか自分の野営地にシュメの棟梁モウコが現れるとは思いもしなかった。そういう意味では油断もあったが、その気配を全く感じなかった。

「ナンフウ様!」

服装だ。今日のモウコは忍衣装ではない。実用的なだけでない、装飾が施された煌びやかな武衣を纏っている。つまり、「ナンフウ」だ。

しかし、顔を包帯で隠していない。それが不思議であった。

戦友にして副棟梁だったリュウキがこの世を去って以来、モウコの眉間の皺は更に深くなった。そう伝え聞く。

直接会うのは、もうかなり前のこと。五年は経っていよう。しかし忍でありながら武芸者でもあるモウコのその武威は衰えていない。

クラマ自身の成長もあることを考慮するなら、モウコの武威は年齢を裏切って尚上昇しているようだ。

「モウコだ」

不機嫌なわけではないが、不機嫌そうにモウコは言った。

「決着は、まだ、、のようです」

憶測を伝えるのは常に現実を要求される忍にとっては不適格であり、ときに生き死にをも左右する。

しかし、遠く聳えるインペリアルタワーの中のことまではわからない。わからないという現時点での最適な返答のつもりだった。

モウコに、それを咎める気はない。何の間違いもない。しかし、咎めるような顔でクラマに返す。

「うむ。もういいそうだ」

何がだ?とクラマは頭を働かせる。この棟梁の言葉は行間が広すぎる。

「影を用いるのは、もうやめるということらしい」

「、、、は、、」

「フッ」と笑ったモウコに驚いた。

「この格好を見ろ。その気だったのが急に気が変わったかのようだ。恐らく、北斗南斗のこの一戦に、あの方も思う所あるのだろう」

「は。ナンフウ様が、、」

モウコにしては言葉が長い。それよりも今し方笑ったことが信じられない。

「いや、こちらも整いつつある」

天帝周りの状況が、ということであろう。

「既に天帝を脅かす大敵はいない。その心算あってか、それともただの結果論か、、北斗と南斗が敵を一掃している」

と、和むような微笑を見せる。クラマは悟った。モウコは身を引く気だと。忍は生きてはやめられないが隠居するのだろう、と。

「この私も、決着は気になる。天帝のお側に控える大役。これを今日はナンフウ様自らやるとのことだ。行け、そう仰ってくれた」

「そうでしたか」

あのまだまだ歳若いナンフウ本人が? しかし、それだと色々と齟齬が生じそうだが、、?

そんなクラマの隠した戸惑いを見抜き、モウコは開き直ったように話す。

「だが、長くはなるまいよ。実は決まっているのではないか?既に」

真っ白な頭髪のモウコが振り返り、折れたタワーに目をやる。

 

185.

 

「人の思い、、、」

ケンシロウがシンの言葉を繰り返す。

「思い、、」

(BGM.アニメ北斗の拳ケンシロウがやり返すシーンの)

 


ケンシロウの闘気は甦っていた。

「その思いは、、この俺にもある。俺を幾度も死の淵から救い出しだものだ」ギン!

「、、、その中には南斗の男たちもいるんだろう?」

「俺は約束した。レイやシュウたちだけでなく、俺を救った多くの男たちに。この乱世に光を取り戻すと!」

その為にもこの闘いで果てるわけには行かない。この闘いに持てる能力全てを注ぎ込んでも、先を見据えねばならない。それが北斗神拳伝承者だった。

シンは思う。北斗神拳は重い。南斗聖拳も決して軽いものではないが、北斗神拳を追う者だ。ただ独り最強という孤独の荒野を行く者、、、

その歩みは独りでも、無数に背負う思いがある。それはケンシロウ本人が新たに背負った重荷ではない。

北斗神拳がその背に負う、二千年にも及ぶ人々の思い。その思いは重さとなり北斗の拳に力を与える。

北斗神拳伝承者ケンシロウは、北斗神拳という神技だけでなく、その思いも継承しているのだ。

 

、、、徐々に間合いは詰まる。必然に詰まって行く。
ケンシロウは改めて構え直し、瞬間! 氣が爆ぜた。ケンシロウの上半身に付着していた血が吹き飛び、その傷口は完全に塞がっていた。

次いでその鋼鉄のような肉体に刻まれた大小無数の傷が光を発した、、ように見えた。氣眼でのみ確認できる、ケンシロウの古傷だった。

「この身体に傷が刻まれる度、俺は強くなった。シン! キサマが刻んだこの新しい傷も!新たな俺の血肉となる。そして!この心に刻もう」

そして構えを崩さず、間合いを寄せ始めた。シンも応じて構えを作り直す。やはり、その構えは最も好む双鷲の構え。しかし、ほんの数センチ高い。

胴体の秘孔はまだ無効化できる。かつて、特異体質にあるサウザーの秘孔の位置を知るのに「一手」が必要だったように。

それとも既に、ケンシロウはこちらの秘孔を見抜いたか?

しかしだ、やはりここで最も危険なのは頭部。いや確かに、北斗神拳ならば腕や脚からでも命を奪う点穴術はあるだろう。

だが、既にお互い「舞台の最高潮」にある。シンはそう確信し、ジリジリと間合いを詰める。確実な一点、とケンシロウを読む。

 


ある意味、とっくに間合いに入ってはいるが、この距離から放つ伝衝裂波が有効とは考えられない。

そして、シンはケンシロウの「飛び道具」を知っている。単なる剛の闘気弾など、この距離で回避できないようなノロマではない。

そう、問題は北斗神拳秘中の秘である、弾丸の如き闘気で秘孔を撃つ、落鳳の奥義だ。

サウザー個人は気に入らないが、南斗聖拳の帝王、南斗の顔とも言えるサウザーを敗北に追いやったあの秘技を打破したいという気持ちもある。

これは「南斗聖拳伝承者」としての意地だった。

 


二人の距離、約2m、、、、

暗殺拳としての戦い。二人の間に圧縮された高濃度の氣は存在しない。

秘孔を極めればいい。突き入れればいい。目的に特化した極めてシンプルな状態であった。

小鳥が二人の間を通り過ぎても不思議はないような、穏やかでさえあり、眠りを誘うような静けさだった。あくまで第三者視点では、だ。

そして、、、呼吸が合った。間が、、魔が合った。

 


スッ

互いに最速の詰め、ではない。そこに力は割かない。

 


しかし、無数の闘気の突き、相手の読みにのみ感じさせる虚の突き、そして一撃で確実に終わらせる混じり気のない、北斗と南斗の拳が「静かに」交差する。

究め極まったシンとケンシロウが無意識無想の中で拳を交えたまま、すれ違う。

南斗聖拳が空気を切り裂くこともない。北斗神拳も空気を破り壊すこともない。だが、その空間は確実に死んだと錯覚させる。

 


互いに向き直る二人の身体に新しい傷は一条もない。

シンは確信した。来るところまで、本当に自分が達したのだと。ここが極み、まさに究極なのだと。

昨日でもなかった。仮に明日生きていたとしても、もう恐らく留まれないこの「究極」。

ただの言葉ではない究極に、今立っていることを実感した。恍惚にも近い思いで確信した。

 


「神域か」

思わず口に出た。対してケンシロウは無言だが、シンの言葉に目で相槌を打つ。

ケンシロウも同様の感覚を得ていた。

ラオウやファルコ、カイオウとの死闘とはまるで性質が違う。同じ南斗聖拳故かサウザー戦に感覚は似ている。

ハンマーで打ち合うような戦いではなく、鋭い剣での斬り合いであり突き合いだ。冷たい緊張感があった。

 


拳の神域、、それは風も匂いも色彩もない、凍て付くような、時さえも止まった静寂だった。

ところで

前にも書いたと思いますが、この妄想北斗の拳、妄天の拳は、自分の「北斗の拳」に対する、愛と情の墓です。

実は、一昨年の6月までに全て投稿して終わる予定でした。

しかし、自分の中で完結してしまい、結果投稿意欲がなくなってしまったのです。

もう、この先の話はとっくに決まっています。ケンシロウとの結着とその後も、オールラストの場面まで。

この二年の間に少しは変化もありましたが、九割は既に固定された内容です。今はそれを書いているわけです。

しかしやはり、、半端な形で終わらせたくない。北斗の拳に対する感謝を込めて、しっかりとした墓を立てたいという気持ちもあります。

それに、たとえこの細々とした二次創作でも、完結させれば、その時に何か、、、達成感だけでない何かも、、、あるかも知れません。

まあ、こういう自分ももうすっかり立派なオッサンですから、「超人」というものに魅力を感じなくなっています。

どう鍛えても頑張っても、人間はちょっとした獣に素手では勝てないわけです。そう、弱いわけで。それが現実、、悲しくもまた魅力ある現実の人間です。

それに自分の、この書くということにも限界というか、一定の線を設けていて、、、つまり仕事でもないことに、リソースを割けないという面もあります。

例えば、これは原作にも描かれてはいませんが、北斗の拳の組織、南斗聖拳の組織、天帝や元斗の組織、、、

こういったものは、かなり宗教的な面もあるのではないか?

とか、

どんな建築物に、その中のどんな部屋で話し合いをしているのか?

どんな関連組織があり、そして暗躍する人たちがいるのか?

などなどについての妄想を遮断せざるを得ません。自分の知識や妄想力の限度もあり、また言葉にする能力も欠けている面もありますし。

でもまあ、完結はさせたい。できるだけ早く。構想は出来上がってるので、後は書いていくだけです。

 

ありがとう北斗の拳、との思いを込めたお墓を作るためにです。

 

184.

「はぁ、、はぁ、、、はぁ、、、」

 


自分の息遣いだと理解した。そう気が付いた。

ケンシロウが片膝を着き、血が溢れ出す傷を押さえながら苦悶の声を上げている。最強の男がそんな姿を晒している。このシンに対して。

それは彼が、全南斗聖拳の悲願をかけてこの一戦臨んでいながらであっても、あまりに信じ難い光景だった。

 


だが、何故にシンの身体に北斗神拳が効かなかったのか?

やっと今、理由が言語化されて理解できた。

 


シンの肉体は一度北斗の拳にて破壊されている。そこに回答があった。

 


、、、シンはここからの追撃をしない。躊躇いがあったのでも、情けをかけたのでもない。

勝負所に思えても、下手に追撃を仕掛けたなら確実に迎撃される、、、そんな予感がある。ほとんど確信めいた予感だった。

つい今しがた、ケンシロウの「起こり」のない無意識無想の拳撃がシンを弾き飛ばしたばかりだが、

これとは違う何かへの警戒が、シンの追撃を止めていた。

 


その間にも、ケンシロウの呼吸は調って来ていた。調気法かそれとも自らの秘孔を突いたのか、出血は治り、再び力が漲り始めていた。

最後の一瞬だけ噴き出し宙を舞っていた血液が、闘神像の上半身の様に見えたのは気のせいか?

シンの追撃を止めた予感、、超越した拳士が本能的に悟った何か、、、それがいよいよ残る例の奥義か?

それでもまだ膝を着いたままのケンシロウに言った。

「まだなんだろう?」

 


まだ、あるんだろう? この期に及んでも尚この俺の、この南斗聖拳を超える秘奥義が。北斗神拳究極の秘奥義が、、、

「あるんだろう?」

 


「何故だ、、」

そう言ったのはケンシロウだった。

「秘孔を突いたはず」

正確に言えば秘孔は確かに突いている。サウザーのように秘孔の位置そのものが異なるのとは話が違う。

対してシンは答える。

「皮肉なことだ。それはあまりにもな」

 


(回想シーン)

かつて南斗の荒鷲として、そして乱世にあっては非道の王として、残虐なる行為を繰り返した。

そしてユリアを喪い虚の王となったシンを終わらせたもの、、、それはケンシロウの、北斗の死の秘拳だった。

 


「人の意思、、、なんだよ、ケンシロウ。こんな俺を生かし、そして「ここ」に今お前といる」

「、、、」

ケンシロウも漸くにして通常の呼吸を取り戻していた。自身の血でヌメるように貼り付くやぶれた革ジャケットを身体から剥ぎ取った。

「これは天の意思ではない。人の意思、人の思いなんだ!」と、かつて破壊された左の拳を握り込む。

 


死までのカウントダウンの最中、シンはサザンクロス、キングの居城から身を投げた。

それを受け止め、秘薬にて死神の業を欺いたのは蝙蝠。それ以前にそのビジョンを以って蝙蝠を動かしたのは、、ユリア!

ユリアは、その癒しの力でゆっくり死んでいくはずのシンの肉体に残る生命力を活性化させ続けた。

数ヶ月もの生と死の譲り合わない拮抗に、最終的に勝ったのはシンの、これも皮肉なことに、死を決意したはずの彼の肉体だった。

北斗神拳によって破壊されながら、回復を同時に並行し、シンは命を長らえた。

無論、代償はあった。

南斗の氣を扱う術を、彼は失い、ただ半端な武術の心得のある、それでいて満足に身体を動かせない、ただの男に成り下がった。

だが!そんな自分を助け見捨てなかった、あの村人たちへの思いと、今まさに自分が殺されるという場面でもシンを気遣ったリマの叫び、、、

自分の欲望や執着でなく、初めて「誰かのために」南斗の拳を用いたいと、魂で叫んだその時!

ズタズタに破壊され繋がることのない本来の「道」が、彼自身の肉体の中で強く蠢く南斗の氣によって無理矢理に新たに構成された。

ほとんどそれは産みの苦しみの如くに、出血と激痛を生じさせ、新たな南斗聖拳としての復活を生誕させた。

その時は、これに気が付かなかったが、今こうして北斗の死拳が無効化されたことで、やっと理解したのであった。

 


とは言えだ、、、これがケンシロウ相手に優位に働くかと言えば、そうではない。一回限りのことだ。

恐らく、この現象はシンの胴体のみに限定されるだろうし、となると頭部や腕脚に、秘孔と経絡の変異はない。

更にその上、この最強者ケンシロウなら秘孔点穴なくしても十二分にシンを倒す力がある。

そう、まさに一回限りの幸運に過ぎなかった。それでも、感極まるものがある。

かつて、蔑んだシュメや無名の人間たちによって、そしてユリアによって、、、この「一回限り」があったのだ。

ここに、あるからだ!

183.

全ての奥義を会得し、北斗神拳伝承者となったとは言え、その時点で真の伝承者になったことにはならない。

その北斗の宿命故に数多の強敵と死闘を繰り返し、時に敗北し、そこから這い上がった。

それが北斗神拳伝承者でありながら敗北をも知る男、ケンシロウだった。

サウザー戦に遡る。

サウザーの秘孔を確実に突いたつもりでも、実は秘孔点穴は為されておらず、手痛い反撃を受けた、という経験がある。

それ以来ケンシロウが敵の秘孔点穴を為すにあたっての意識が深まっていた。

拳を当て北斗神拳陰の氣を通して極め(キメ)とするところを、その氣が確かに「流れた」かを意識する様になっていた。

その経験が、このシン戦、この直後の致命傷を回避するに助力した。

 


シンはほとんど感覚的に理解した。まだその理解が言語化される前に、自身の肉体に起きた不可思議な現象を知るに至った。

駆け巡る北斗の氣が極点を見つけられず消散し、本来の役目を果たせない。

拳撃そのものの強い衝撃はあったが、今やシンの強度も成長している。僅かな怯みの後に反撃に転じるだけの間は取り戻すことができていた。

 


拳に押される身体を右足で踏ん張り、やや無理な体勢ながらにそのまま軸とし前進する。

無駄な力を撒き散らしながら、即ち床を蹴り砕きながら、サウザーが宿ったかの如くにシンは出た。

両腕を下げたままの状態だが、ケンシロウにはスキがあるはず。絶対である北斗神拳が効かなかったことを気付いていないはず、と。

サウザーを意識したつもりはないが、下げた両腕を大きく斬り上げクロスさせる。

極星十字拳ではないが、見た目は変わらない強烈な十字斬り!

 


ズバッ

 


音は小さい。力に無駄がなく音になる分のエネルギーは威力に変換されている。彼が身に付けた本来の純度の高い透き通るような南斗聖拳だった。

「!!?」

それを回避したのは正に北斗神拳伝承者というだけでないケンシロウ本人の経験だった。

自身の拳から発せられた北斗神拳の氣は目的を為していない、、、それをこれもやはり感覚的に悟ったケンシロウは無意識無想の回避を見せていた。

シンの斬撃は空を、文字通り空を斬るがケンシロウには触れていない。

「ぉあた!!」

その空振りを見、ケンシロウは反撃を試みる。無意識と意識の狭間の一撃であった。

だが、、

「けあ!!」

シンは交差させた十字を逆に開きながら再度強烈な十字斬を、しかも微かに退がりながら、斬衝を浴びせるように斬り放った。

「な!?」

接触れなくても、これほど南斗の裂気極まるなら、北斗神拳伝承者といえど確実に斃せる。それほどまでに満ちた拳であった。

 


生と死が瞬く間も無く交差し、その「担当者」は目まぐるしく交替する。

 


ついにシンの斬撃はケンシロウを捉えた!

 


シンの予想とは違い、今の斬撃でも斃せない。ケンシロウの闘気はその極限まで防御を強化している。

北斗神拳伝承者を倒すには必殺の間合いで南斗の拳を突き入れるしかないのだ!

だが、追撃のチャンス!

先程、着弾を許し敗北を覚悟したせいか、脳内は変に落ち着いていた。拳に純度も戻っている。

 


ここしかない!!

 


だが?

 


、、、、、

、、、、、

、、、、

 


北斗神拳奥義

無想陰殺

 


ドゴォ!!

 


一瞬にして三撃もの拳をシンは被弾していた。

無意識無想ながらにケンシロウは秘孔点穴を狙っていない。

シンの胴体には、少なくとも現時点で秘孔点穴は効かない。ケンシロウ本人が意識せずとも、先ず一旦は間合いを離す必要がある。

押す力を優先した拳であった。シンは吹き飛び数m先の壁に激突し、尻を着いた。

拳と壁面激突の衝撃が彼を一時的な、ほんの一瞬だが、一時的な戦闘不能状態に陥れる。

にも関わらず、次がない。

 


血が舞っていた。

 


シンの斬撃を受けたケンシロウの身体から血が噴き出ていた。

 


「ぐぅおおおぉ」

 


無想陰殺にて絶対の危機から脱したケンシロウであったが、先の斬撃は十分過ぎるほどのダメージをもたらしていた。

最強の男が、よろよろと退がり左膝を着いた。

 


「うぬぐおお」

 


敢えてケンシロウは苦悶の声を上げ続けた。そうしなければ全ての生命力が、噴き出す血と共に虚空へと消えてしまうように思えたからだった。

どこか勝手に飛び出しそうな我が命を、声を出し続けることで、無理矢理掴んで逃すまいとする。そんな状態であった。

北斗神拳真の伝承者がそんな状態に追いやられていた。

 

182.

見事だった。

ケンシロウは改めてこのシンという男を認めた。認めざるを得なかった。

かつての強敵(トモ)は今こうして目の前に自身の最高な状態で立っている。

 


今の蹴りの威力は、あのラオウをも思い起こさせた。

しかし感心すべきはその威力ではない。魔闘気を放出するほどの闇を持ちながら、魔界に呑まれず、むしろそれを支配したことだった。

技術は盗み身に付けることができる北斗神拳だが、魔闘気だけは真似ができない。

北斗神拳伝承者とて魔界に堕ちれば自らの力では戻ってくることはできない。いや、誰の助けがあろうと生還の目はなかろう。

それをこの男シンは為したのだ。

 


もちろん、、、シンの闇の濃度はさほどではないということはある。

カイオウの場合は、同じ北斗を冠しながらも魔道と忌避され虐げれた過去があり、更にそこに少年期の個人的な理由が加味される。

一方でシンは南斗聖拳の歴史を踏みにじり、恐怖で沈黙させた北斗神拳に憎しみはあるが、、敬意も抱いている。

 

 

 

「暗黒の深淵に堕ちても、キサマには勝てんのだろう?」

シン自身は知らない、もうひとつ北斗の拳について言っている。

北斗神拳憎しで堕ちに堕ちても勝てはせぬ。、、、そうだろうよ。北斗神拳を倒し得るのは聖なる拳のみ!」

グッと左の拳を握り込む。サザンクロスで破壊された左の拳だ。

 


「、、、」

「穢れ知らぬ処女が聖を気取っているのではない。堕ちた。泥にも塗れた。這いつくばり、そこを踏み付けられた。清濁ともに食い尽くし飲み尽くした!」

シンが寄る。最早無駄な闘気の放出はない。内側には南斗聖拳の裂気が鋭く圧縮されている。

「それが今は俺の誇り!南斗聖拳とともに俺が俺である誇りだ! 北斗神拳を倒すのはそういう男じゃないのか!?」

上目遣い気味にケンシロウを睨み付ける。

 


一方、ケンシロウは、蹴りを受けた前腕を埃でも落とすかのように叩き払い、構えを作り直し、そして言う。

 


「見事だシン」

この言葉に嘘はない。

先の一撃に込められた力が、シン本人の言葉よりも語っている、、、サザンクロスからのシンの険しく長い荊の道のりを語っている。

 


「だが、お前の拳は見切っている!」

 


これは決して挑発ではなかった。

闇に呑まれず、生来の激しやすい性情を抑え、北斗神拳憎しと言えど、それに対する、即ちケンシロウ自身への敬意を捨て去ってはいない。

この生死をかけた勝負であっても拳士としての誇りを他の何よりも重く視て、南斗聖拳という立場と我を失わない。

或いはこの強烈な「我」こそ、シンが堕天しなかったその理由なのかも知れない。

 


しかしだ、、、それでも今シンは熱を帯びている。帯び過ぎている。過熱している。

ここにケンシロウが「見切っている」という言葉の意味がある。

サザンクロスで同じ言葉を浴びせられた時とは違い、激昂して攻め込んでは来ないシンではあるが、技に「雑味」が生じていた。

ケンシロウがシンに不意を突かれたと思われた蹴りも、その雑味が故に「浅い」間合いで受けることができていた。

透き通るように究められた南斗聖拳のはずが、今は僅かに濁りがある。

 


「見切っている、だと!?」

 


ケンシロウが歩を止めている。先程までの死角を突かれる歩みは止まっている。勝機とまでは思わないが、勝利を手繰り寄せる一手!とシンは出た!

 


「おお!」

再びの南斗孤鷲拳奥義千首龍撃!

二本の腕が冥界からヒュドラを召喚する。一度目の「挨拶」ではなく、本気も本気の龍撃だった。溜めていた力が解放される快感がある。

「おおおああ!!」

ドドドドドド!!!

無数の南斗の突きが撃ち出され撃ち出され撃ち出される!

だが、シンは過熱のあまりにヒュドラが空気を裂く音の違いに気が付いていない。過熱のあまりひとつひとつの刺突に微小なズレがあることに気付けない。

 


そして! たしかに見切っていた。ケンシロウはシンの拳を見切っていた。

サザンクロスとの時とは比較にならない成長を見せているシンだったが、彼本来の悪い癖が出ている。

攻め気の強さと激しさ故に、拳を繰り出すその寸前に頭部が僅かに前に出る。

突きがいかに速く、いかに多くても機を悟れるならば回避は可能。その受け手は北斗神拳伝承者なのだ。

流石に間合いを外しての全回避とは行かないが、、、、

「北斗千手羅漢掌!!」

ブワワアァァァ!!

シンに向けた千の掌が巨大な盾のように変化し、ヒュドラの首ひとつひとつを流す。そう、弾くでも受けるでもなく、流して逸らす。

千の突きではなく、渾身の一撃であったなら、撃ち出す勢いを利用され、生じたスキに死点を取られていたであろう。

 


バン!

 


「な、にぃ?」

全ての突きが防がれた。先の千手壊拳のときのように撃ち合ったのではなく、受けに回られその全てを見切られていた。

 


何故?、、一度目よりも本気だったのに?

本気の本気。本気の空回りだった。意気込んだ分、雑味はついに焦げついて全体の動きを鈍らせた。

 


「は!!!?」

 


返す刀で次はケンシロウの番!

ケンシロウの「見切っている」発言は挑発ではなく、「冷静さを欠き拳が乱れている」との助言だった。

ケンシロウケンシロウで、この一戦にかける思いはある。些細なことでこの強敵の力が無駄に削がれることは望ましくない。

最高の敵であってほしい。最強の強敵であってほしい。その最高最強の男を尚超えて北斗神拳伝承者の名をその身に背負うのだ。

「おおおお!!」

だが、手を抜く気はない。天帰掌の誓いがある。その覚悟もある。

何より自分がラオウサウザー、そして北斗琉拳のカイオウを退けた、北斗神拳真の伝承者だという自負がある。

 


「北斗千獄拉気拳!!」

 


北斗千手壊拳よりも強く速い、秘孔点穴なしでも一撃で敵を壊し尽くす拳が無数に放たれた。

シンがそうであったように、ケンシロウも先の千手の交換は「挨拶」だったのだ。

自身の奥義を完全に受けられた直後のスキ。奥義を発動したことにより、一時的とは言え限界を迎えた肉体と、まさかの完封を受けての心のスキ、、、

 


、、、必殺の間合い、、、

 


咄嗟に残った力で退がり、半端な千首龍撃を発しながら、完全なる間合いを僅かに避けた。

だが、、ケンシロウはシンの胴体に浅い、しかし秘孔点穴には十分な深さを伴う拳撃を数発当てていた。

その数発に込められた圧がシンの上衣を破り散らす。十字型に刻まれた深い疵。その型とは異なる箇所に北斗神拳を受けた。

 


「ムグッ」

体内を氣が疾るのを感じた。思い出したくない記憶、、、その感覚はサザンクロスで受けた北斗の死拳と相違ない。

勝負ありか!?

数秒ある。秘孔の効果が出るまでに数秒ある。しかし、体内を蠢くように走り回わる北斗の陰の氣がシンの動きを妨げる。

 


「(ここまでか)」

だが良くやった。まだ試したい技はあったが、そうそう上手くは行かないものだ。

忸怩たる思いとともにそう敗北を認めた時、ある異変に気が付いた。

走り回わる北斗の氣が留まらない。

 


これは!? まさか!!?