妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

108.

スッ、、、

ガルゴの重ねた掌が、、右手を上にして横に寝かせた合掌が、、
シンの胸の前に伸ばされていた。
ガルゴの氣を発しない無想の行動であったがため、シンはその気配に反応できなかった。加えて、氣を発しないとなるとほとんど暗闇の中ガルゴの動きを見切るのは困難だったという点もある。
それだけではない。
それだけならガルゴの体の動きを正確に判断できないにしても、何かしらの危険を察知する経験と勘が働く筈だ。
一旦距離を置くでも、防御を兼ねた突きの速射で対応しても良かった。

シンの一撃がガルゴの胸を突いたため、シンには「欲」が出た。この機を逃さない、決める!という思いが強く押し出され、それが大きな気配となった。
ガルゴの奥義無心がその乱れを感知しシンの「穴」を見過ごさなかった。

後手に回ったシンに対し一瞬早いガルゴの行動。
合掌を上下に開く。アコーディオンを思わせるような氣が、しかも眩い(まばゆい)金色の光が張り伸ばされる。直後にはドーム状に輝く金の盾となっていた。
その光がガルゴの顔を照らす。細かい血管までが浮かび上がって尋常ではない。
シンは神脚を駆使し、間合いからの離脱を試みるが、、、、、遅かった。
既に金色の氣によりシンは浮かされていた。
神脚が足場を捉えることができない。
完全に後手。

ガルゴは一歩踏み出すではなく、その場で両腕を縦に180度ずらして高速で回転させた。
ガルゴの身体中に浮き上がった血管が破裂し血が舞う。金色の二つの円輪が周囲を照らす。
明るかった、、、

この後確実に訪れる衝撃に備え、シンは咄嗟に両腕でガードを固めた。さほど防御に資しない南斗の裂気を集め、鋭い刺だらけの盾とする。

 

ブバッ!!

二つの光輪が微かな時間差をおいて発せられたが、焦点、いや衝点を合わせるようにしてそれらはシンを同時に撃った。
流輪光斬ではシンに相殺される恐れがある。重輪はこれを超える威力があるが、その分更に溜めが要る。
ガルゴの「無心」が選択したのは奥義衝の輪だった。

 

こんな時にも、むしろこんな事態だからこそ、脳は「回転速度」を増した。それ故にギュルギュルと回転する金色の二つの輪がスローで視えていた。その輪が迫る。
最後まで可能な限り裂気を集める。耐えるのではなく、裂気で氣のエネルギーを消滅させるためである。

 

パン!
小さい音と共に光の輪が消え去る。音さえ小さいのはエネルギーがほとんど無駄なく衝撃に変換されたことを意味していた。


身体が分解されるような強烈な衝撃だった。
戦闘の氣を纏っていないなら、、、裂気によって少しでも衝撃の威力を落としていなかったなら、、、間違いなくシンの身体はバラバラに砕かれていただろう。
物質同士を結びつける引力が解かれて、細胞のひとつひとつが互いに解離してしまうような感覚があった。
またも吹き飛ばされて錆び付いた鉄柵に当たる。押す力よりも目標地点で最大の衝撃を与える技だったため、ボロボロの鉄柵でもシンの落下を食い止めてくれた。
そして、その跳ね返りのお陰でシンは倒れずに済んだ。両膝を着いた状態に落ち着いた。だが、身体は動かない。衝撃で麻痺しているかのようだ。

「奥義、衝輪」
ガルゴも肉体の限界を遥かに超えていた。既に強い雨によって洗い流されているが、日の当たる場所であるならば全身には血管が破れた夥しい傷跡が見える筈だ。

「う、動けまい」
ガルゴの言葉からも力強さが失せている。
だが、一歩一歩重い足取りでガルゴは近付いて来る。

両膝を着いた体勢でさえ維持するのに耐え難く、シンは両手を着いて倒れるのを防いだ。何とか手だけ麻痺が解かれた。しかし本来の状態に戻ったということではない。

頭が重かった。雨の音で掻き消され、光を発しないガルゴの位置がわからない。それがわかったときはトドメの一撃ということだろう。

ピカッ
雷光がガルゴの巨大な影を水面に映し出す。近い。5mといったところか。

ゴゴウ!!
すぐに雷鳴が響き渡る。雷雲はまた近くに来ているのだ。
ケンシロウサウザーとも、ケンシロウ対ファルコとも違い、南斗と元斗のもう一つの頂上決戦に観客はいない。分厚い雷雲と、そして死兆星だけが二人の戦いを観ている。
暗闇の中に浮かぶ散った南斗六星の面々などもいない。いる訳もない。

動かない。身体はやはりまだ動かない。「まだ」動かないのか、、もう二度と動かないのかはわからない。ひとつ確実なのは、このままでは永遠に動かない肉塊と化すということだけだ。


まだなんだよ、、、まだなんだよ死兆星


シンは動けないながら、その状態で左手から微弱な氣を発した。コンクリートよりも水面の方が相性がいい。ずっといい。しかも深度僅かに数センチ。条件はいい。氣が潜ってしまうことがないからだ。
水面に弱い氣を前方に、ガルゴの方に伸ばして行く。あまりに微弱で感知することはできないだろう。今のガルゴの状態では尚のこと。

薄い氣の膜を水面に張った。強い雨で水面には乱れがあるが、却ってそれが氣膜の存在を隠してくれる。
熟考するよりも、絶好の距離とその時は感覚が教えてくれる。


俺はまだ負けていない。最後の勝機がある。
、、、とも考えていない。
身体が動かないという不自由な状態が、逆に唯一できることに思いを集中させてくれる。


そう、身体はほとんど動かない。
しかし呼吸はできる。息苦しいがまだできる。
呼吸で氣を練る。
水面に張ったのと同様の弱い氣を丹田に少しずつ溜めておく。
弱い氣同士が丹田内でざわめき合う。まだそれらは好き勝手に動き回っている。方向性は統一されていない。そんなイメージだった。


、、、「その時」は自分の感覚が教えてくれる、、、