妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

100.

ススッ、、、
ガルゴの巨体が先ほどと違い静かに疾り出た。速い!
速いが気持ちを瞬時に切り替える。もっと速いサウザーを知っている。

その速さを身に付けた俺がいる!

 

ガルゴが泰山天狼拳を思わせる、しかしそれよりも遥かに破壊的な金色の闘気を伴う何もかもをも抉り取る一撃を繰り出すが、シンは退がるどころか前に出た。
単に間合いを空けて退がってもガルゴの氣による手は長い。上や横に避けてもそれはガルゴの想定内。その後に仕掛ける何かもあろう、と、、顕在意識で考えるよりも先に身体が動く。

ガルゴの剛拳を左で受けつつ、同時に下方より右の突きを、、撃つ!
それをガルゴはスッと移動して空撃ちさせた。
シンは基本通りに外した右突きを戻しガードをし直す。そこに合わせて来たのはガルゴの左中段蹴り。やはり氣の刃はなくても速さと重さは流石である。いかにシンが戦闘モードでも、まともに入っていたら骨を数本やられた筈だ。

ガードの上からでも有効打に近い一撃を与えて置きながらガルゴの表情は先の高揚をまるで思わせない。戦闘中であるのに無表情、、いや悲しげでさえあった。
ガルゴの闘気の色と体捌きの質の変化。これがエイリョク?ムシン?
ムシンとは無心だろう。エイリョク、、影の力か? たしかに金色の闘気に黒い陰も見え隠れしているが、、

 

シュオン!
「!」
ガルゴがさらにシンを追い詰めて来る。
一撃一撃が速く重い。下手に受け続けていてはこちらもガス欠になる。
しかし何故に闘気の消耗が大きいガルゴの動きが落ちない? 少なくとも氣と呼吸をしっかり整えるだけの間を挟んでもいい筈。

ヴン!バシッ!ブオン!ビシッ!
金色の流輪を捌きつつ合間を見て条件反射的に突きを撃ち出すが、これもガルゴは円の受けで弾く。その弾く力も尋常でなくシンの防御を崩す。かと言って受けずにただ退がって距離を取ろうにもいずれは捕まる。

しかもこのままではビルの縁に追い込まれる!

そう思考しながらもガルゴの連撃の隙間を狙って突きを繰り出すが、やはりガルゴの堅く硬い防御に弾かれ体勢が、、、崩された!

「!」
だが! ほんの一瞬ガルゴの気配が増した。その機とその氣を確かに捉え、シンは弾かれた力をそのまま利用しサイドロールでガルゴの正面から脱し、更に回転後の軽功術で距離を離す。

 

凌いだ。更にガルゴを消耗させた筈だ、、、筈だ。

 

「見事。このガルゴ既に南斗聖拳への様子見は終えている。それでいて我が光の攻勢を受け切るとは、、、ありがたい。ファルコの他にこれほどの拳士と出会えるとは」

 

恐らく、、途中からの気配の読みづらい動きがムシン、、無心だろう。しかし奴は完全にものにはしていない。だから俺が崩れた直後の一撃には「意識」があった。殺気が起こり動きに重さがあった。
それに加え、光を放つ元斗が故にその一撃は視やすく、その凶なる氣も肌で感じられる。
そうは言っても、このままガルゴの消耗を待ったところで危険は変わらずに付き纏う。

ならば!

「ついて来いガルゴ!」

シンはガルゴが天井に空けた穴の真下に移動し、スゥ、、と身を屈め、トーン!と屋上へと跳んだ。

「ほう」
見事な飛翔跳躍術。なるほど低い天井ではやりにくいか?とガルゴもシンを追って跳躍した。その跳躍は南斗聖拳と違い石を張り詰めた床面を砕き散らす。


何もない。
ビルの屋上といえば様々な設備の跡は残っていようものだが、ここには何もない。あるのは安全性という言葉から遠くかけ離れた錆び付いた鉄柵だけだ。しかも部分的にしか設置されていないと来ている。

だが丁度いい。拳のみの純粋な勝負に集中できる。

 

空は変わらず厚い雲で覆われているが、その雲の上から禍々しい光が射している。その星の輝きを見えるのはシンだけであろうか。ガルゴの頭上に死兆星は輝かないのか。
巨大な黒い墓標と化した帝都を遠くに見、シンは深く呼吸した。
血と氣の巡りが調う。少しでも疲労を抜く。
すると低く垂れ込めた地平線の彼方の雲が切れ、沈みかけの美しい夕陽が姿を見せた。
ガルゴも美しい夕陽を感慨深そうに眺めている。その顔は戦闘中のものではない。

ほんの数分、、、二人は戦いを止めてその美しさに魅入ってしまっていた。しかしすぐに太陽は姿を隠し、紅い夕陽も再び厚い雲が遮ってしまった。

シンは低い曇天を見上げる。雲を突き抜ける死兆星の光が本当に煩わしい。

冗談じゃない!
俺は明日もまた夕陽を見る。
こんなところじゃ終われない。俺は南斗聖拳伝承者としてのプライドのために戦い、そして勝利を掴み取る!

南斗の長い夜を終わらせる。