妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

103.

悲しみが俺にこの無心を会得させた。いや、多くの屍を越え、くぐった死線の先に辿り着いたのがこの場所だった。
全ての拳技を究めるのは必要最低限の条件。そこに悲しみを知ることで更なる脳の未知の領域を覚醒させる、、、のだろうか。
それは俺にも分からない。
だが、、
「俺にはお前の拳の全てが視える」

またも必殺の間合いを取りながら決せられないシンに焦りの表情が濃く出ていた。そしてやはり頭上を気にしている様子が窺える。

「そうか」
理解した。シンは雨を待っていたのではない。先ほどの雨を利用した戦術は見事であったが、そうではないようだ。
死兆星を見ているのか、、、南斗よ」

問いに答えないことによる肯定。

「だが、それに思いを奪われるな。死兆星など俺には見えん」

シンは思う。
そうだろう。それはガルゴお前がこの戦いを生きて終えるからだ。
だが!
だがまだだ!
まだ覆せる。そう信じるしか他にどうしようもない。

「俺も進退極まったか。ならば!」
ギラン!
シンの目が語る。勝負の時が訪れたことを。
雷鳴鳴り響く中、シンは覚悟を決めた。だがまだ死兆星に抗うことはやめない。それを受け入れるということは死を意味するのだから。
低く構え、腕を広げる。そして、、、

出る!!
ただ突進するわけではない。標的ガルゴからややずらした神速の突進!
光を反射する金色の足跡を残しながらシンが出て、片脚を軸に独楽のように高速回転しながら手刀で斬り付け、そして脚で砕き壊す!
手刀は脚と比較してリーチは短いが裂気を放てば「長く」なる。蹴りを繰り出す際には時に宙に跳ねて間合いを連続して変化させる。
氣も肉体の耐久力も消耗する大技、南斗壊陣拳。そのシンプルな名称からわかるように六門の守護者であった時の対多数用の拳である。
精度を上げても無心を会得したガルゴには通じない。あの理解不能な動きを捉えられない。ならば、精度よりも数打ちという明快ながら単純な思考である。それほどシンは追い詰められている。
それこそシンは無心でガルゴを追い詰めんとする。対して巨体剛拳の男ガルゴは、これの間合いを外して悠々と、というより幽々と回避して行く。
ガルゴの動きが止まった瞬間を千首龍撃で撃つという狙いも、その前提が成立しない。
消耗が激しい。
シンは当たる見込みのない両腕を十字形に切り開く斬撃で最後のアクセントとして打ち出すも、やはり当たらず擦りもせず。

それでも打ち出さなければ反撃を受けるのではないか?

それほど、、、

気配が読めない、、、

ギリギリで付いていけるのは金色の光が尾を引くからだ。
これがもし本当に北斗神拳の究極奥義でもあるならば、考えたくもないが完全に気配を読み違えることになる、或いはまるで読めさえしない状況に追い込まれる。
既に陽は落ち暗闇である。これが元斗皇拳でなかったら、、、
先ほどガルゴが言った「元斗の特性上、不完全」というのも理解できる。

究極奥義、、、
、、、ある。南斗にも究極奥義として伝えられる拳はある。
それ即ち断己相殺拳。
命を捨て守りを度外視した相打ち狙いである。故に実力差があれば、その機を逸らされ無防備な身体を晒すことになる。

 

自虐的な笑みが焦りで引きつるシンの口元を吊り上げる。雨がなけば焦りで全身汗だくだったであろう。ただでさえ大技の疲労も来ている。

 

限界、、、、

先がない、、、技がない、、、、

「いや!」
終われない。俺はここで終われない。終われない!
まだある。俺の中にまだ残っている。
そうだ、、、サウザーから学んだ神速とあの羽根のように空を舞う拳はまだ破られていない。
そう、やはり鳳凰拳は南斗最強なのだ。しかし俺の偽の鳳凰拳だけでどこまで行ける?

ガルゴは「待ち」に入っている。殺を前に出していた時と明らかに違う。それは「究極奥義無心」というだけではない。氣の消耗は確実にある。ないわけがない。

よし、、、

先と違い、考えがまとまった。とりあえずの攻めは命取り。奴がこちらを討とうと動く時、闘気が動く。それは元斗皇拳では避けようがない。読めぬ気配もガルゴが動けば肉眼にも氣眼にも視える。肌でも感じる。
先を仕掛け、ガルゴの後の先を誘い、さらにそこが勝負。後の先の先を取る。

「俺は」
「!」
ガルゴが口を開いた。
「戦場で元斗聖穢の拳を用い、一体どれだけの命を奪って来たか、、、」

光が弱まっている。つまりは、、、こちらの狙いを見抜き、それに合わせた迎撃のため、無駄な氣を絞っている、、、溜めている。その時間稼ぎか。
「だが、情け容赦など成り立たない戦場においても、逃げる者、命乞いをする者を殺めたことはない。一度もない。何故だかわかるか?」
「、、、、」
ザア〜、、、雨は強いままだ。遠くがまた光る。遅れる雷鳴。先ほどよりも雷鳴が遅れている。

「戦場だからだ」
「、、、?」
「好き好んで戦地に赴く者ばかりではない。寧ろ、、、故あって出向くものだろう? 嫌々戦地に立つ者も多いだろう。勝つとわかっていれば或いは人間の残虐な面が出て、その後の略奪を期待する者もいよう」
「、、、」
「フフ、、、戦争の醍醐味は略奪にあるとさえ行った者もいた。どんな奴かは忘れたが。少なくとも、俺たちのように背負う流派のために、その誇りをかけて戦うなんて者はいない」

時間稼ぎ、、、だとしても、ここてガルゴの言葉を遮ることは違うと感じている。

「俺が嬉しいのは、、」
と、ガルゴは天を仰ぎ懐かしそうに回想している。顔に当たる雨を気持ち良さそうに。
「一度命乞いをし、逃げた者が、次はより勇敢な戦士となって我が前に立つ時だ。戦場で俺の前に立つ者は子供でも女でも、皆敬意を払うに値する戦士だ。だから、一切の容赦はしなかった」

最後は息苦しそうにガルゴは言い切った。女子供もその手にかけて来ているのだ。その手は正に穢れている。

 

「元斗は、、南斗もそうだろうが、戦闘時は覚醒しているせいか、敵の顔を覚えていることが多い。皮肉なものだ、、、尊敬する相手を、その命をこの手で断たねばならない。」

敬意、、、シンは戦場の雑魚どもにそんなものを持ったことはない。

 

「銃器を手にしていても元斗の金獅子を相手に向かって来るというのは、どれほどの勇気か。逆の立場なら俺は勇気を示せたか、、、」
「無駄な仮定だ。俺は、南斗聖拳があるから俺なのだ。南斗聖拳なくば、、、」
!、、、かつて力を失い彷徨ったあの日を、俺はもう忘れていたのか?、、、
南斗聖拳以外何も持っていない、全てを喪った俺を助けてくれた人々をいつの間にか、いや少なくともガルゴとの戦いに臨むにあたり、必要のないものと意識の外に追いやった。
棄てていた。

「ガルゴ」
「これは元斗と南斗の誇りをかけた戦いだ。憎しみなどはない。だが、俺には聖穢のサダメがある。シンお前は朝敵。天帝のためにお前を討たねばならぬ。命乞いをしても無駄だ。その見苦しい姿を見せてくれるな」

ブワッ
挑発するな、、、俺は挑発に弱い。挑発が俺を炎にする。だが何故だ?
炎と化した俺は身体が軽い。気持ちが上がる。俺に火を点けるな。

 

「臆したか? 勝てぬとなれば尻尾を巻くか? いや羽根を畳むか? 南斗聖拳よ」

 

わかってて挑発している。

 

「ありがたい」

 

無想?

無だと?

 

全てを破壊する南斗聖拳なら!
無をも貫き通して見せよう!!