妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

111.

遠くから聞こえる爆発音で気が付いた。

朝だった。
止むかに思えた雨はまだ降り続いており、彼の体温を奪い続けている。


寒い、、そう感じたのはいつ以来か。
それよりも、これほど深く寝てしまったのもかなり久しぶりだった。
ケンシロウに敗れ身を投げたところを救われてからの、あの期間以来だろう。
、、、、精魂尽き果てた。
心身共に刻まれた傷から快復はあるだろうか。

ガルゴは!?


彼は鉛のようになったと感じる重い身体を起こしガルゴの遺体を探した。

消えている。

しかし何者かが運び去ったのでもない。

南斗と元斗の苛烈な戦いの傷痕を残す屋上階の排水口に向かって、灰のようなものが流れた跡があった。
これが元斗皇拳の限界を超えて戦った者の末路なのだ。
ガルゴは灰になっていた。
屍を晒すことなく、ガルゴは灰になった。灰塵と化した。

「そして敗れた俺はここに生きているか」
自嘲した。


先の爆発音、予想するに帝都の残存勢力と北斗の軍の戦闘であろう。
わざわざこのビルの最上階にまで上ってくる兵士はまだいないが、戦況によってはそれもあり得る。そうなった時、今の彼では無事逃げることは困難。
全身のダメージは深刻なレベル。戦闘どころか走ることさえ出来ない。強い悪寒もある。
死兆星は消えたとしても、、いや、あんなものを生死の目安にすることの無意味さはガルゴが身を以て教えてくれたが、少なくとも現状が安全とは言い難い状況だった。


「どうやら、貴方をお助けするのは私の宿命のようですね」
この声は!
全身黒で覆った、顔に十字傷が刻まれた男。
「蝙蝠!」
「少しも嫌ではありませんがね。むしろ光栄の至りですよ。お久しぶりですね」
髪には大分白い物が目立っている。

「下の、、騒ぎは?」
思考は冴えないままシンは尋ねた。
「提督派の最後の頑張りですよ。ファルコ様たち将軍直属の兵たちはまともな軍人たちでしたが、提督直轄の兵士たちはというと、まあいろいろアレでしたから」
蝙蝠はビルの縁から遥か下を見下ろす。
「ですが、もう終わるところですかね。北斗の軍だけでなく、提督派に不満を持っていた人たち、そして天帝を自分たちの上に仰ぎたい方々も合流してますから。賢い人はとっくに逃げてますね。逃げたところで、、って話ですけど」

そしてシンに目を戻す。
「さてその前に、、、ここから脱出しなければ、です。そのご様子じゃあ、無駄と知りつつ必死の抵抗を続ける殺気立った兵たちの間をすり抜けるのもぉ、一苦労でしょうか」
蝙蝠はシンの様子を観察した。その目付き、、、氣の様子も観ているようだ。
「いやぁ、なかなかの荒れっぷりですね。それにしてもあの元斗の金獅子と恐れられるガルゴ様と戦ったのですよね? そのガルゴ様がどこにもおりませんが、、、」
「俺は、負けた」
「!、、ほぉ、、そう、、ですか」
と、シンの前にある灰溜まりに目を向ける。流石にこの灰がガルゴの成れの果てとは思うまいが。

「蝙蝠、何故ここに?」
気丈に振る舞い、立ち上がりながら問うが身体がよろめいた。
「ま、それより早くここから抜け出しましょう。追い詰められた兵たちが逃げ場を失いここまで来ることも、、ないかな。いやそれはわかりませんよね」
と、以前と変わらずマイペースだ。その変わらないということがシンには何故かありがたかった。

「肩をお貸ししますよ、ささ」
「大丈夫だ」
とシンは応えたものの、やはり重くなった身体と思考はそのままだ。
「そうですか? じゃあゆっくり降りて来て下さい。私は一応敗残兵たちがいたら退いてもらいますから。もちろん可能な限り平和的に。あ、でもこのような建物には階段が最低でも二箇所、、、」
とブツブツいいながら降りて行った。階段を降りる音が軽い。流石に手練れの忍にして南斗蝙翔拳の使い手。その腕は更に練り込まれているだろう。

「、、、、」
シンはガルゴの灰に目を向けた。何か入れ物はないかと探したが見当たりはしない。その濡れた灰を残しておきたかった。
思い出なんかじゃない。大敗から自らを戒め、それを忘れないためでもない。
せめてちゃんと葬りたかった。綺麗な夕陽が見える小高い丘にでも墓を作ってやりたかった。
墓標に名は刻まない。聖穢の戦士に名は要らぬだろうから。
右手に灰を握った。零れ落ちて行く濡れた灰。だが僅かにでも持ち帰ることはできる筈だ。


シンはよろめきながら地上への階段に向かった。