妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

95.

※1ページ目表紙
柱以外ほとんど何もないフロア
まだ構えずに待つシンとやや前傾姿勢で歩み寄るガルゴ
背景には光を放たない巨大な帝都


ガルゴが詰めて二人の「長い手」の間合いを割った。
だが、両者共にその長い手を用いない。様子見など要らない。先ずは確かな実感が欲しい。
相手がこの二人だけの戦舞台に相応しいと感じられる確かな感触が欲しい。


漸くにしてシンが構える。やはり得意とする双鷲の構え。右足前、右貫手は目線の高さに伸ばし、左貫手は迎撃と守りのために腹部の前に置く。
この強敵ガルゴに対して、まだサウザーのような構えなき構えで対抗する気はない。いや、前進し制圧する以外に選択肢がないからこそ鳳凰拳には他の南斗六聖拳をも圧倒する力を有するに至ったのだろう。
だがシンが目指す南斗聖拳鳳凰拳ではない。暗殺拳南斗聖拳源流直系の孤鷲拳には対応力が求められる。あらゆる敵に対して有効に変化できる柔軟性が必要だ。
六聖拳の中の一つとして差別化を図る中でいつの間にか孤鷲拳はその柔軟性を失っていたのではないか。孤鷲拳はこういう拳だと決めつけてしまっていたのではないか。
北斗神拳を強大な敵として認識するあまり、自ら南斗聖拳というものを小さく纏めてしまったのではないか?

 

一撃千斬、、そんな言葉がガルゴの脳内に浮かぶ。シンから発せられている殺刃の密度は飽和に達している。
だが、虚の拳或いは実の伴わない氣刃だけなら元斗の防膜がそれを凌ぐ。用心すべきは間合いを割った際に繰り出される実の拳。
虚実混ざり合う拳の内、実の拳を避ければいい。下流の拳士相手であればともかく、ガルゴからすれば実の拳に繋げるための虚の拳など恐るるに足りない。
シンプルな話だった。


ふっ、、、
ガルゴが瞬間、脱力した。
その気配を察しシンは次を読む。脱力し低く下がった身体で突進して来る!

ドン!!
ガルゴが床面の破片を撒き散らし前に出る!
読み通り!!速い!
金獅子が光を放ちながら迫り来る!
が、もっと速い男サウザーを知っている。そしてシン自身も匹敵する疾さを既に得ている!
ガルゴの動きは見えている!!

しかしガルゴは予想外に低い。巨体のガルゴがここまで低い地を這うような突進で来るとは予想もしていない。
伝衝裂波で斬り上げるのであれば格好の餌食だが生憎その分の時間はない。

一か八かで間合いに入ったガルゴに拳を突き下ろすか!?
直後!
ほとんど無意識にシンは跳んでいた。シンは宙にて思う。危険な賭けに乗じることはない。

先ずは南斗聖拳の飛翔術を味わえ!

「空(クウ)へ!」
天井は高いがシンの飛翔跳躍能力からすればそうは高くもない。宙空を舞うシンを見上げて落下を待つ。
常人相手であるなら頭上高いこの跳躍からの攻めは有効であろう。常人は跳べない。戦闘中に跳ぶ意味もほとんどない。故にこの想定外の上からの攻めに対処法はない、、、常人にはだ!
だが殊元斗に限っては違う! 平面だけではない。全方向からの不意の攻撃にも対応している。聖穢の拳であろうと守護の拳である元斗皇拳の要素を失ってはいない。
高く跳んだ敵など撃ち落としてくれと言わんばかりの的!
もっとも、、、この読みを知らずに飛んだわけではあるまいが。

「空中でどう避ける!」
とガルゴは左右両方の握り拳に氣を圧縮しシン目掛けて一気に放出!
元斗の光弾による散撃である!
一方、それに反応したシンの手は勝手に「増殖し」ガルゴから放たれた数多の光弾を突きで打ち消して行く。

軽く迅い。そして自由に突きが出る!

ガルゴの光弾はボルツよりも速く多い。だがシンの千の手はそれらを全て打ち砕いても満ち足りない。

「む!!?」
まさかの宙空での光弾全消しにガルゴは戸惑いを隠せない。
直後に野生的な、それとも戦場で培った勘か、シンの頭上からの攻めを警戒して前転でその場を避け間合いから離脱した。防具が床面に擦れ当たって不愉快な音が発生する。
それを見、シンは静かに着地。
あの元斗皇拳が前転で回避など、らしからぬ。やはりこの男の拳は違う。そのような誇りを持ち得ない。
だから余計に強い!そう思わざるを得ない。

タタン!と南斗の軽功術を駆使してシンが追う!
そしてすぐに再び舞い上がる! もちろん千の手、その翼を拡げて!


「(またも!)」
繰り返す頭上からの攻め。再度氣弾の乱射を試みてもシンの突きは全て打ち消すだろう。鋭い突き、、点が面となるほどの疾さと数!
ならば!!
「ごう!!」
金色の闘気を右掌に集め、下から撃ち上げる! 砕天葬撃!! 撃ち上げながら自らも跳躍する!

「!」
このシチュエーション! 下からの迎撃! ボルツの時と酷似!
いいや、こうなるよう誘っていた。
フワッ、、南斗らしからぬ柔らかい氣がシンの身体を包む。


「(その無数の突きの間合いに入る前!我が拳が先に届く!)」
宙にては動けまい! こちらの肉は斬られよう、骨も断たれよう、しかし!俺はキサマの全てを滅殺する!
「むん!」

ブワッ!
「!!??」
完全で絶対の間合い。負傷は覚悟の上の一撃が素通りした。宙にあったシンを素通りしたのである。
ドゴオ!! 天井に達したガルゴの拳がそこに大きな風穴を開けた。流石に凄まじい破壊力である。

フワリ、、
柔らかくシンが着地し、ダン!とガルゴが遅れて着地した。急いで振り返りガルゴは言う。
「これは!?一体、、、、む!?おほう!!」
バッ!!
ガルゴの上半身の防具が全て破砕され、その傷だらけの身体が剥き出しになった。斬られ傷、槍の刺し傷、そして銃創と思しき多数の古疵。そこに新たな傷が、南斗の裂拳が刻まれた。

、、、浅い。
シンとてサウザーが見せた鳳凰拳奥義を完全にものにしてはいない。だが更に完成に近付いている。ボルツのそれを遥かに凌ぐガルゴの拳だがそれを見切り、おまけの返しの斬撃を浴びせていた。
経験だ。ボルツという強敵との戦いで試した全てが活きている。もちろんそれだけではない。
怒りで本領を発揮したケンシロウの拳を受けている。サウザーの疾さと鋭さとその技量の高さを目の当たりにしている。
それらを念頭に、南斗聖拳から見れば取るに足らない格闘技や武術を一から学んだ。結果見えて来た一つの事実。
それら取るに足らない児戯のように思えた技の中に、南斗聖拳にさえも存在しない身体操作や南斗聖拳をさえ驚愕させる術理と慧眼があった。
むしろこれこそ本来の南斗聖拳が持ち得ていた力なのかも知れない。
北斗を追ってこの国に来た南斗は、この地の職人気質の武人が練り上げ工夫した技術を取り入れ、より確かな存在となっていた。それを漸くにして体感した。


「貴様は根本的な武を学んでいない」
サウザーの言葉が脳裏に蘇る。まだまだかも知れんが、あの時とは違うぞ!サウザー

だがもちろん、、、このままでは終わるまい?
そうであろうガルゴ。

「!?」
バザン!
シンの上衣が肩の防具諸共散り散りに刻まれ、或いは焼かれて布屑と鉄屑と化した。
完全には見切ってはいなかったようである。やはりボルツとは格が違う。
前面にも背面にも深く刻まれた十字型の深い傷痕が露わになった。燻した銀を思わせるシンの肉体に柔らかくかかる聖銀羅髪。

「なかなかの傷だ」
ガルゴが言う。それほどの深い傷を負って尚ここに生き残っているシンの強さに敬意を持つ。

「この傷、かつては我が魂に永遠に刻まれると思えた屈辱と敗北の証。、、、今は違う。これらは」
とシンは左手の甲を見せた。甲全面と掌にも大きな傷痕がある。身体の傷は本来は紛うことなき致命傷。左手の傷痕は一度完全に破壊された跡。
奇跡的に生きている。奇跡的にこの左手は動いている。だがこれは奇跡ではない。人の思いがこれを為した。

「今では誇り。死を超えた証。そうだろうガルゴ」

シンは左手を強く握り込んだ。