妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

6.警護責任者

「聖帝様!お休みのところ無礼をお許し下さい!」 
ドアを蹴破る勢いで入って来たのは、この夜の統括警護責任者リゾである。非常時かも知れないが複数で聖帝の寝室に押し入ることには抵抗があった。それで他の兵たちは外に待機させ彼だけが飛び込んで来たのである。
かつて南斗聖拳を学んだが、早々と自分に才なしと見限り南斗に仕える道を選んでいる。もっとも、一度南斗に関わった以上はこれに属さず生きる道はないのだが。
サウザーとは旧世界からの顔見知りであり、聖帝勢力の中でも高級官に位置するが、そのおかげかモヒカン頭でないことが許されている。 
南斗の重鎮にして人格者とも言われる六聖拳の一人仁星シュウの旧友でもあり、本音を言えばサウザーのやり方には賛同できない。
ではあるが乱世が治世になるまでの戦闘と犠牲はやむなし、という立ち位置であり、シュウがレジスタンスとして聖帝に反旗を翻し始めたことには心を痛めている。 
しかし愛する妻子のために、乱世の早期終結のために、聖帝勢力拡大と支配に心血を注ぐ決意をした。結果いつも中間管理職のようなストレスを抱えている。 
そんな南斗を知る彼だからこそ、ほんの小さな氣の乱れを敏感に察知できたのだ。 
「何事かございましたか!?」 
「ふん、蝙蝠が舞い込んだわ」 
生真面目な彼は聖帝の寝室にコウモリが舞い込んだことを自責した。寝室は複数あるがここに限っては南側の割れていたガラス壁を枠に至るまで全て取り払った開放空間だ。
当然この寝室は穏やかな気候の時しか利用されないことになる。
昼間は鳥の侵入を防ぐ役目を持った清掃兼警護班がいるが、夜間にコウモリの侵入を防ぐのは困難であろう。もちろん、賊が忍び込むには高過ぎる上に夜警のモヒ官たちもいる。人の侵入はまず不可能だ。
それにしてもコウモリというものも随分と高いところを飛ぶものだ、と感心している側面で、闇を飛ぶコウモリを兵たちが捕らえるというのも如何様か、、、具体的な対策を打ち出さねば、、、
などと真面目に思案しているリゾを見るや聖帝は面倒臭そうに言い放つ。 

「蝙蝠が舞い込んだのだ。蝙蝠は闇夜を舞うものだ。誰が蝙蝠に気がつく?そしてまた飛び去った。それだけだ。責は誰にも問わぬ」 
そうは言うが先程の南斗の氣は? 飛び去ったというが微かに残るこの血の匂いは?
聖帝の白いナイトガウンには汚れはないが床面には血の滴も残っている。そのくせコウモリの死骸はない。疑問は残る。 
だが、聖帝がそう言ったのだ。リゾは考えを改めると突然の無礼を再度詫び、入って来た時とは真逆の丁重さを以って静かに出て行った。 
一応、このことは日誌に残さねばらなるまい。あくまでコウモリが寝室に入り込んだという「事実」だけを。 
さらに数十歩ほど進んだとき、リゾは床面の血を拭き取るのを忘れたことを悔やんだ。